品川女子学院様での睡眠に関する特別講義(日本睡眠協会×JINS「寝る育」)の実施について

「睡眠から、人と社会を健やかに。」をキャッチフレーズに、睡眠に関する科学的根拠に基づいた情報の提供と具体的な施策の提案を行うことで、人々の睡眠を、より良いものにし、人と社会を健やかにしていくための活動を推進する一般社団法人日本睡眠協会(理事長:内村直尚、東京都文京区、以下「JSLEEP」)は、睡眠に関する普及啓発活動の一環として、「日本睡眠協会×JINS『寝る育』」として、JSLEEP賛助会員の株式会社ジンズホールディングス(東京本社:東京都千代田区、代表取締役CEO:田中仁、以下JINS)様と共同で2024年7月19日に都内の中高一貫校である品川女子学院(所在地:東京都品川区)様にて睡眠に関する「特別講義」を実施致しました。当日は当協会の内村直尚理事長が登壇し、40名近い生徒さんにご出席をいただき熱心に耳を傾け、ご参加いただきました。今後、講義の内容を受けて個々の生徒さんたちが夏休み中に各々の睡眠課題解決に取り組み、それがどのような効果をもたらすのか検証し、夏休み明け9月2日に研究成果として発表していただく運びとなっております。

当日は内村理事長から「睡眠の学習や心身に及ぼす影響 ~よりよい睡眠が脳とこころとからだを育てる~」と題して、生活習慣の乱れがちな夏休みを目前に、特に中高生年代の睡眠の重要性、改善に向けたポイントついて解説致しました。概要は以下のとおりです。

夏休みにどういう生活をするか、どういう睡眠をとるかが体調、勉強やスポーツに影響する。規則正しい生活をすれば2学期からの学校生活が幸せで楽しく、勉強も効率よくできる。

(参加した生徒さんに、平日は睡眠時間5.5時間、スクリーンタイムが正味13時間程度、週末は金曜夜に17時間「寝だめ」をして、2.5時間昼寝して21時に就寝、スクリーンタイムは5.5時間/日という例があり、)厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」(以下「睡眠ガイド」)は、中高生に必要な睡眠時間を8~10時間とする。平日と休日の睡眠時間の差が大きいと「社会的時差ボケ」状態でよくない。週末に15時間寝て、昼寝した上に21時に就寝できるのは、慢性の睡眠不足状態と考えられ少々心配だが、休日の前に夜更かしせず21時から寝ているのはよい。普段より1、2時間早く寝ようとしても健康な人はなかなか寝られない。

まず、睡眠の役割は①こころ・脳・身体の休養、②疲労回復、野球の大谷選手は「夜10時間寝ないと次の日100%の実力を出せない」という。③ストレス緩和、人間は寝ている時間だけがストレスフリー。④体温を下げる働き、子どもの頃熱が出た時寝るだけで体温が下がったと思う。⑤エネルギーの保存、皆さんは若くエネルギー消費量が大きいので長く深く寝る必要がある。⑥身体の成長、睡眠中に成長ホルモンが分泌され、脳やメンタルの安定にも影響する。⑤免疫機能増加、コロナ対策としても睡眠は効果的である。⑥記憶の固定、睡眠をきちんととらないと学習したことが長期記憶として残らない。

平均睡眠時間の国際比較、日本の子どもの睡眠は大丈夫?、学年別平均睡眠時間
  • しかし、世界で最も寝ていないのが日本人で、睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)の中で最低の7時間22分で、平均より1時間以上短い。日本の中学生も欧米との比較で最も寝ていない。
  • 小1~高3の学年毎の睡眠時間は、小学生は8~9時間寝ているところ、中学校入学以降どんどん短くなる。これは就寝時間が遅くなることが原因。
    生物学的な要因で最も睡眠時間が短くなるのは19~20歳で、そこまでどんどん夜型になっていく。夜に光を浴びたりすると更に夜型化が加速する。
年齢別のインターネットの利用状況、インターネット利用率
  • ところが、1~17歳のインターネット平均利用時間(2022年度)の統計によれば、小学生でもスクリーンタイムは長く、10歳で3時間、17歳になるともう5時間以上になる。
  • こども家庭庁の調査によれば、ネット利用率は9歳以降ほぼ100%になる。
インターネット利用に関する家庭のルールの有無
  • 中学生では家でのネットの利用についてルールを決めている割合が7~8割くらい。しかし、高校生になると生徒の「決めている」が40%に対し、親の「決めている」は60%で、親子間で認識の差がある。
  • 夜ブルーライトを浴びると、メラトニンという睡眠を促すホルモンを抑制し寝られなくなるので、床に入る2、3時間前からは避けるようにする。
子どもにおける睡眠の役割
  • 脳に記憶に関係する海馬という部位があり、睡眠が少ないとそれが大きくならない。
  • 夜中の深い睡眠時に成長ホルモンが出てくるので、睡眠が十分とれないと体が成長しない、怒りっぽくなるなどの影響がある。
ジェンキンズの法則
  • 大学生グループに夜あることを学習させ、半分のAグループは十分な睡眠をとり、残るBグループは徹夜する。そして学習内容を翌朝テストすると、Aグループの正答率は56%、Bグループは同9%という結果に。徹夜の勉強は意味がなく、せめて3時間くらい睡眠を取る。
睡眠習慣と成績の関係
  • 中学生の成績と睡眠時間、就寝時刻の関係を見ると、基本的には睡眠時間が長いグループほど成績がよく、就寝時刻が早いグループほど成績がよい。
睡眠不足になると
  • 睡眠が不足すると、物事を考えたり創造したりする前頭前皮質の機能や、情動反応や記憶と関係している扁桃体の働きが低下する。
睡眠と肥満は関係がある
  • 睡眠をきちんととってない、質が浅いと成長ホルモンが、代謝が十分でなくなり肥満になりやすいと言われる。
  • 睡眠不足でまず甘いものに対する味覚が鈍感になる。また、レプチンという満腹を感じるホルモンの分泌が減り、グレリンという空腹を感じるホルモンが出る。朝食を摂らないと脂肪がつきやすい。夕食後にすぐ寝ると肥満になりやすく眠りも浅くなる。
生体リズムが現れる仕組み
  • 夏休みと睡眠のリズムは密接に関係する。人間の脳の視床下部にある視交叉上核に生体時計があり、これが活動と休止、自律神経、内分泌、代謝などのリズムを司り、24時間で生活できるように動いている。
  • ただ、それは正確には地球の自転の24時間より少々長い25時間で動いており、一日1時間ずつずれていく。それを24時間に合わせるため、人間は無意識のうちに時計のリズムを光、食事、人との接触、運動、環境でリセットしている。
  • なかでも一番リズムを調整する力が強いのが朝の光を浴びること。その次が食事、きちんと三食摂る、特に重要なのが朝食をきちんと摂ること。
  • 環境のリズムは、昼夜のめりはりをつけ、昼は明るく騒がしくてよいが、夜は暗く静かにする。
  • 週末に寝だめ、金曜夜更かしして土曜遅くまで寝るというのは、(時差のある)2泊3日の海外旅行と同じで、これを「社会的時差ボケ」という。夏休みに規則正しい生活をしないとこれが1か月続き、2学期が始まっても1,2か月はリズムが乱れたままで体調が崩れ、勉強にも身が入らず、意欲もなくなり体も疲れてしまう。
睡眠と体温、夜型と朝型
  • 人間の体温にはリズムがあり、1日24時間のうち一番体温が高くなるのが夕方5時くらい。それから上がっていき、その後下がっていき朝5時くらいに最低体温になる。
  • 大体体温が下がるところでしか寝られず、最低体温を過ぎて体温が上がっていかないと起きられない。体温の下がり方が大きいほど深くぐっすり眠れるため、お風呂に入って1、2時間経過したあたりがぐっすり眠れる。
  • 体温のリズムは朝型の人と夜型の人とではズレがある。そして、19から20歳くらいに向かって人間はどんどん夜型になっていく。
  • 夜型は夜22時くらいに最高体温が来てそこから下がっていくので午前1~2時あたりにならないと寝られず、朝は9~10時にならないと目覚めない。8時くらいに起こされても、体温が下がりきらずまだぼやっとしている。
体内時計は光によって大きく影響する、光による睡眠リズムの変化
  • 夜型にならないためには夜にスマホ、ゲームやLEDの光をできるだけ浴びないことが大事で、逆に朝に光を浴びることで実力を発揮できる。昼に浴びてもリズムは変化しないが、朝に浴びると朝型になっていく。一方、夜に浴びると夜型になっていく。
街の明るさ
  • どの程度の光が効果的かというと、曇った日の窓際程度=概ね3000ルクスで、直射日光を浴びる必要はない。それが夜型を朝方に変える一番の方法。
  • 朝が弱い人は東側の部屋に寝てカーテンを開け朝日が顔に当たるよう、直接当たらずともカーテンを開けた窓際で寝る。学校でも「朝が弱い人は登校したら東か南の窓際の席に座る」と決めれば、その学校は大きく変わっていくと思う。
  • 朝日を早い時間に浴びれば浴びるほど朝型になるので、今の季節=夏休みが夜型を朝型に変える一番のチャンスなので逃さない。
24時間社会によるリズムの乱れ・夜の光環境の変化、体内リズムと光
  • しかし残念ながら今は夜型社会であり、夜コンビニに行くとLED(1000~2000ルクス)でブルーライトをたくさん浴びてしまう。
  • むしろコンビニに行くなら朝が良い。なぜなら、コンビニの照明のブルーライトがメラトニンという睡眠を促すホルモンを抑制するので、眠りの質を低下させる。
    特に20歳くらいまではブルーライトの感受性が非常に高いので、若い時期は大切。
不規則な生活による悪影響
  • 中学生を対象に行った研究で、土日に1時間遅寝をしている人としない人を比べると、前者は日中眠気が強く、テストの成績も悪い。1時間のずれでリズムが乱れ、能力が低下し、昼間眠く、疲れやすくなる。
就寝時刻の遅れ(結果的に睡眠時間は短い)で生体リズムが乱れると
  • 就寝時刻の遅れでリズムが乱れると、知的・情緒的発達の遅れ、自律神経の乱れ、不登校や引きこもり、意欲の低下や肥満、うつや攻撃的になる、集中力の低下、落ち着きがなくなる、風邪をひきやすくなるなど悪影響がある。夏休みに規則正しい生活をしてリズムを崩さず、夜ブルーライトを浴びない。
健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)

先述の睡眠ガイド、今回は高齢者、成人、子どもの3つのライフステージに分けて出した。

こどもにおける年齢別推奨睡眠時間
  • 睡眠ガイドでは、子ども=20歳未満で、年齢別(1-2歳児、3-5歳児、小学生、中高生)に睡眠時間が推奨され、中高生は8~10時間、お昼寝が必要なのは5歳まで。
  • そして夜更かしや朝寝坊に注意し、朝起きたら光を浴び、朝食を摂る。可能な限りスクリーンタイムを減らし、体を動かす。床に入ったらデジタル機器の使用は控える。
  • 皆さんの年齢で8時間睡眠していれば午後眠くなることはないが、難しいので午後は眠くなる。一番眠くなる時間帯は午前2時~4時だが、もうひとつが14時~16時。
  • これは昼食を食べなくても、前の晩の睡眠が足りないと必ず眠くなる。従って、昼休みの終わりくらいに10分くらい横になり、眠らずともうつ伏せになったり、椅子に座ったままうとうとするだけでその後2、3時間くらい随分眠気はなくなる。
  • 20歳までは20分以上寝ると10分よりも効果は下がるが、それでも眠気は軽くなる。ただ、30分以上は寝るとかえって眠気が強まるので注意。
  • 私の母校福岡県立明善高校は、20年前に日本で初めてお昼寝を導入、昼休みの後半に10分間の仮眠タイムを設け、学業やクラブ活動の成績が上がり、保健室の使用も減ってきた。
睡眠ガイドの定性的推奨事項
  • 引き続き睡眠ガイドだが、定性的な推奨事項として①睡眠環境、②生活習慣、③嗜好品それぞれについて「こういうことを守ろう」ということが挙げられている。
  • ①睡眠環境は、寝る前の寝室を暗めにし、寝床でゲームやスマホは控える。
  • ただ、デジタル機器を控えるのは容易ではない。夜にLED含めブルーライトに接しざるを得ない場合、ブルーライトをカットできるメガネで夜型化を防ぐことはできる。
  • ②生活習慣では太陽の光を十分に浴びる。そして昼間は運動し、朝食を摂る。
  • ③嗜好品は、カフェインが多いものを夕方以降飲むと眠れなくなるので、夕食前までにする。
体内リズムの整え方
  • 夏休みに体内リズムを整えるためには、規則正しく朝起きるということが大事だが、そのためには夜もある程度一定の時間に眠ることが大切。人間は朝起きて16時間経つとメラトニンという物質が脳から分泌され、眠くなるようにできている。
  • 裏を返せば、睡眠不足だと早く寝られるのだが、普通の人は朝起きて16時間経たないと寝られない。だから、この時間に寝よう、と思ったらその16時間前に起きる。
体内リズムを整える ―ラジオ体操―
  • 夏休みに効果的なのはラジオ体操で、NHKで朝6時半からなので6時に起き、そこから16時間後の夜22時くらいに必ず眠くなってくる。夜22時には必ず眠るような仕組みで、規則正しい生活をする上で意味がある。
  • さらに、6時には起きて朝ご飯も食べる。そしてひとりではなく仲間と一緒に大勢でやり、体を動かす。先述のリズムを整えるための朝の光、朝食、運動、人との接触、明るく騒がしい、ラジオ体操はこれを全部満たす。
  • 1980年代に体内時計が発見されてノーベル賞をとったが、ラジオ体操は日本で大正期に始まっていた。つまり、体内時計発見の何十年も前から日本はラジオ体操を始めて子どもたちの健康を守ってきた。
  • ただしラジオ体操を録音して9時からやっているところがあるが、それでは意味がない。ラジオ体操は生で、生ラジオ体操が理論的に効果がある。

夏休みに入るので、以上のようなことを、そのまま守るというのは無理かもしれないが、できる範囲で規則正しい生活を送って楽しい中学・高校生活を送っていただきたい。

 

 

 

【協会概要】
一般社団法人日本睡眠協会
理事長 内村直尚
設立日:2023年7月20日
事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階
HP:https://jsleep.org/

本件に関するお問い合わせ先
日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org

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