第3回子どもの睡眠WG開催のご報告
当日は当協会理事長の内村直尚先生(日本睡眠学会理事長、久留米大学学長)から「子どもの成長・発達・学習と睡眠との関係 ~健康づくりのための睡眠ガイド2023 『こども版』の紹介~」と題して、本年2月に厚生労働省がとりまとめた「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の子どもパートの解説含め、子どもの健康のみならず学習、成長、発達に睡眠が非常に重要であるとのお話をいただきました。概要は以下のとおりです。
(睡眠の役割)
主な睡眠の役割を挙げると、まずこころ、脳、身体の休養、これは大リーグで活躍する大谷選手がリカバリーのためには睡眠が大事だと言い、必ず夜10時間、昼寝を2時間すると明言している。次にストレスの緩和についても、寝てる時が一番ストレスがかからないことが分かっている。寝ることによって体温が下がる。高熱を出すと眠たくなるのはそれ以上熱が上がらないような防御機構が働いているから。また、エネルギーを蓄える。寝ている時が最もエネルギーの消費を抑える。子どもにすごく大事なのは、特に深い睡眠の時に成長ホルモンが分泌され、体の成長だけではなく、脳の発達、心の成長にも繋がる。そして、免疫力を高める、記憶の固定、そういった役割を担う。
(日本の子どもの睡眠は大丈夫?①)
しかし、日本は大人だけではなく子供も寝ていない。0-3歳児の睡眠時間を他国と比べると圧倒的に日本の子どもは寝ていない。子どもの寝る時刻が遅く、睡眠時間が短くなり、成長ホルモンが低下してきて、成長、発達が阻害されることがわかっている。今の子どもは遅くまでスマホやゲームなどをやり夜9時になってもなかなか寝ない。
(日本の子どもの睡眠は大丈夫?②)
中学生も日本が最も寝ていない。米国に比べ30分、欧州諸国に比べ90分以上、スイスと比べると2時間半睡眠時間が短い。
そして、9-18歳、小学校の高学年~高校生を対象にした研究でもやはり欧州に比べ1-2時間短い。
内村直尚先生プロフィール
日本睡眠協会理事長、日本睡眠学会理事長、久留米大学学長。1981年に日本初めての睡眠障害専門外来を開設し、リーダーとして牽引してきた睡眠障害のエキスパート。「地域に貢献できる臨床家の育成」を自らに課せられた役割だとし、現場に強い医師を多く育成してきた。
(学年別平均睡眠時間)
小学1年生~高校3年生までの睡眠時間を調べたものによれば、小学1、2年生の時は9時間くらい寝ているが、小学校高学年になるとだんだん短くなっていき、小学校6年生から中学校に入学した時にに30分以上短くなり、中学3年間でさらに30分短くなる。そして高校入学時にさらに30分短くなる。つまり、中学3年間で1時間半睡眠時間が短くなる=中学生が最も夜型になりやすい年代であり、当然寝る時間が遅くなり睡眠時間が短くなる。
(日本の子どもの睡眠時間、就寝時刻、起床時刻の関係)
小学1年~中学3年生までの寝る時刻と起きる時刻と睡眠時間を見ると、起きる時刻はあまり変わらずずっと6時半ぐらい。ところが、寝る時刻がどんどん遅くなっていって、小学1年生の頃は夜9時ぐらいに寝ているが、小学校高学年になってくると10時、中学3年生になるともう11時で、2時間ぐらい寝る時刻が遅くなってくる。そのため睡眠時間が短くなる。
(年齢別のインターネットの利用状況)
2022年の内閣府による年齢別インターネット利用状況調査によれば、小学校に上がる前、2歳でも100分インターネットを利用している。小学校に入ると既に2時間、さらに小学校高学年、12歳は231分、4時間ぐらい使っている。
(青少年のインターネットの利用時間)
さらに、令和5年度の子ども家庭庁が出した小学生、中学生、高校生の平均のインターネット利用時間によれば、1日5時間以上使っている割合が、中学生の時は3-4割だが、高校生になると50%を超えてくる。このデータは2021-23年のものだが、コロナの影響もあって2023年の方が長くなっている。
(香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(2020年4月施行))
こうした状況にあって、香川県では条例でインターネットやゲームを制限している。ゲームなどの過剰な利用は子どもの学力や体力の低下、引きこもりや睡眠障害を招く、ということで18歳未満はゲームは一日60分まで、休日は90分まで、スマートフォンは22時までとし、中学生以下は21時までとするもの。議論はあるが家庭内で制限するのが難しいのでこのような条例ができたのだろう。
(睡眠と記憶)
米国の大学生を使った有名な実験だが、あることを夜に学習して記憶してもらう。そして2グループに分け、Aグループはきちんと睡眠をとり、Bグループは徹夜する。翌朝にテストすると、きちんと睡眠をとったグループは正答率56%なのに対し、徹夜グループは9%しか記憶として残っていない。
眠っている間に長期記憶として保存する。つまり、徹夜勉強というのはほとんど意味がない。眠ることで自分が学び、経験したことが記憶として残っていく。
(子どもにおける睡眠の役割)
有名な研究で、脳では記憶と関係する海馬という部位の容積と睡眠時間との間には有意な正の相関関係があり、寝ないと海馬が成長しない。また、成長ホルモンは寝ているときに分泌されるので、睡眠をとらないと体の成長、脳の発達や心の成長へ悪影響を与える。
(就寝時間が不規則または夜遅い子は成績が悪い)
海外のデータによれば、幼少期の就寝時刻が不規則、あるいは夜9時以降の子どもは、小学校に上がる時の成績が9時までに寝ている子どもより悪いという。これは睡眠が不規則、またリズムが保たれていないため、認知機能が低下し、成績が低下している。
(子どもの就寝時刻と注意欠陥多動性障害(ADHD))
さらに、2年前に名古屋大学と浜松医大が研究(対象:8-9歳の小学校低学年の子ども約800人)によると、寝る時刻が夜10時より遅い子どもは神経発達症(発達障害)のADHDの症状と同じような症状が出るため、誤診され、本来なら必要のないADHDの薬を飲み続けることになるリスクがあるという。
子どもの場合、睡眠が十分取れてないとジッとしていられず、多動、不注意、また集中力も維持できず衝動性も高まる。今は小学1年生の概ね10人に1人が発達障害と言われるが、実はその中には遅くまで起きていて睡眠が足りていない子どもも含まれているのではないか。この診断は学校と家庭での生活状況によって行うため、誤診されるケースも少なくないのではないか。
(睡眠習慣と成績との関係)
海外のデータで、(中学生のグループを)成績順にA、B、C、Dの4段階に分ける。Aが成績が一番よく、Dが一番成績の悪いものとし、各自の睡眠時間と就床時刻との関係を見る。すると、A、Bの成績が良いグループは、就床時刻を見ると早く寝て睡眠時間もある程度確保している。ところが、C、Dと成績が悪くなるに従って就床時刻が遅く、その結果睡眠時間が短い。
成績が良いから早く寝て睡眠時間を確保しているのか、あるいは早く寝て睡眠時間を確保しているから成績がよいのか。これは卵と鶏だが、いずれにせよ密接な関係があることがわかる。実は日本の小中学校でも同様のデータが出てきており、やはり睡眠が学校の成績にも関係することが示されている。
(子どもの睡眠不足が行動・発達へ影響する)
なぜ以上のようになるのか、それもある程度医学的に証明されている。睡眠が不足してくると、脳の「前頭前野」という人間に特徴的に発達している部位の機能が低下してくる。前頭前野は記憶、認知機能、学習および集中力、意欲、そして行動感情の制御=いわゆる「キレにくくなる」ということに関係している。こうした機能が低下するため、成績が下がり、やる気がなくなり、キレやすくなる。先述のように、発達障害、特にADHDに特徴的な不注意、多動、衝動性、これは睡眠不足でも起こってくる。
また、睡眠時間が短い場合睡眠時間をきちんと確保している子と比べると、6歳時の多動の頻度が高い。つまり、遅く寝ることや睡眠時間が短いことは多動や不注意などと関係している。
(母子手帳の改訂2023年4月)
昨年4月に母子健康手帳は10年に1度の改訂があった。今次改訂の主なポイントは、生後2ヶ月~6歳までの母子手帳の項目に子どもの睡眠と保護者の睡眠が加わった点。子どもが睡眠が十分にとれていない、あるいは寝る時間が遅いというのは、やはり成長、発達に大きく影響してくる。今、小中・高校生の自殺が増え、年間500人を超える。子どもの睡眠不足はうつ病の発症要因となるため、うつ病からの自殺、引きこもり、あるいは不登校にも関係している。
一方、保護者、特に母親は、出産後はホルモンバランスが崩れることに加え、夜間の授乳などもありなかなか睡眠がとれない。そして睡眠不足になると精神的に不安定になり、産後うつ病や子どもへの虐待にも繋がる。事実子どもへの虐待は0歳児が圧倒的に多い。
さらに、それではもう一人子どもを作ろうかという気にもならない。しかし、自分もきちんと睡眠がとれ、子どももきちんと寝てくれれば、「じゃあもう一人子どもを作ろうか」ということにもなる。そういう意味では母子手帳を活用することで少子化対策にもなる。
(生体リズムが現れる仕組み)
我々の頭の視床下部の視交叉上核には生体時計=体内時計が入っている。この生体時計が睡眠の活動と休止のリズムだけではなく、自律神経、ホルモン分泌、代謝などすべてのリズムを調整している。その時計は24時間より少々長く25時間近いので、それを無意識のうちに24時間にリセットし、微調整している。なにでリセットしているかというと、一番強い因子は朝の光を浴びること。その次に大事なのが規則正しい食事で、特に朝食が大事だと分かっている。つまり、規則正しい生活をするためには朝光を浴びて朝食を食べる。それ以外では、運動であり、社会的リズム。これは人と接触してコミュニケーションを取ること、そして環境のリズム。これは昼と夜のメリハリをつけること。夜明るい光を浴びないようにする、ゲームやスマホも控える。こうした因子を同調因子とよび、きちんと取らないと時計が乱れてしまい、睡眠がとれないだけではなく、自律神経、ホルモンや代謝のリズムも乱れ、様々な症状が出現してくる。
(体内時計は光によって大きく影響する)
中学生くらいでリズムが乱れてだんだん夜型になっていくケースが多い。なぜなら、夜に光を浴びると時計は遅れていくから。逆に朝の光を浴びると早まる。小学校高学年、中学生ぐらいからスマホなどで夜に光を浴びるようになり、どんどん夜型になり昼夜逆転するケースさえある。そして大体20歳頃が夜型のピークとなり、20歳を過ぎるとまた少しずつ朝方に変わっていく。10歳代で夜型傾向になっていくところで、さらに夜に光を浴びるとますます夜型が進む。夜型になると朝から授業に出れない、授業に出てても頭が働かない、体が辛くて学校生活も送れない、ということが起こる。だから、できるだけ夜の光を避けて朝の光を浴びることが正常な24時間のリズムを保つ上でも、朝方で生活する上でも大事である。
(24時間社会によるリズムの乱れ・夜の光環境の変化)
しかし、現在の日本は夜に明るい光を浴びやすい。スマホやゲームはブルーライトがとても多い。LED然りで、このブルーライトが夜分泌されるメラトニン=睡眠を促すホルモンを抑制してしまう。
今の日本はコンビニや家庭も夜すごく明るいので、例えばLEDを使っている家庭は夜は少し照明を落とすことなどが大事。逆にいえば、朝のブルーライトというのは覚醒レベルを上げ、それにより朝方に変わるので、朝はLEDをMAXに上げたり、コンビニに行ってもよい。
最近でいえば塾はすごく明るい。明るい光を浴びると人間は覚醒レベルが上がり脳の機能が高まるので夜に光を浴びせているのだと思う。しかし、夜塾で光を浴び、帰りにコンビニで光を浴び、帰宅してスマホをして光を浴びるとなると日本の子どもたちはどんどん夜型になってしまう。いつも言うのは朝塾=塾は朝にしてくださいということ。朝明るい光を浴びせて勉強すれば朝方になり社会貢献になるのでそれを提案したい。
(不規則な生活による悪影響)
中学生が土日に朝1時間遅く寝ていると体内時計がずれてしまう。土日休日に1時間遅寝をしている子の方が、してない子と比べると昼間の眠気が強く、また、学業成績も悪いという。遅寝で認知機能が低下してくるということ。
(就寝時刻の遅れ(結果的に睡眠時間は短い)で生体リズムが乱れると)
体内時計が乱れることで何が起こってくるのか。知的・情緒的発達が遅れ、自律神経が乱れ低体温になり朝の体調不良を訴える。不登校や引きこもり、意欲低下、あとは肥満の原因にもなってくる。加えて不安・抑うつ、攻撃行動、集中力の低下。うまくコミュニケーションが取れない、落ち着きがない、あるいは免疫力が下がって風邪をひきやすくなるなど、様々な悪影響が及んでくることがわかっている。従い、睡眠時間の確保だけでなく、規則正しい生活が重要である。
(体内リズムの整え方)
では体内のリズムを整えるためにはどうすればよいか。やはり眠りの3要素=リズム、質、量が大事。そして、規則正しい生活をするためには、起きる時間を一定にすることがすごく大事で、朝起きて概ね15-16時間経つとメラトニンが分泌され眠りに就く。つまり、子どもを夜10時に寝かせようと思えばその15時間前、朝7時までに起こす必要がある。だから、朝起きる時刻を平日も休日も一定にすることが規則正しい生活をする上で大事。
光を浴びる時間が早くなればなるほど朝方になりやすいので、夜型の子どもを朝方にするには夏がタイミングが一番よい。子ども部屋を東側の窓際にしてカーテンを開け朝日が直接顔に当たるようにすれば、早い時間から光を浴び朝方になる。私は学校などで講演する際に「学校の席順は朝が弱い子を窓際、東側から並べていければ、授業を受けながら治療できる」と言っているが、そうすれば学校でもリズムを整えることが可能になる。
(体内リズムを整える―ラジオ体操―)
リズムを整えるにはラジオ体操がよい。なぜなら、ラジオ体操は朝6時半に始まるので、6時には起きて朝ごはんを食べ、光を浴び、1人ではなくみんなで運動する。大きな音で音楽も流れる、と同調因子を全て満たすので、ラジオ体操はリズムを整える上ですごく大切なのである。朝6時ぐらいに起きるので、それから15-16時間後の夜9時には必ず眠くなる。ラジオ体操は、子どもたちを規則正しい生活をするように指導する上で、また夜早く寝るために本当に大切。
しかし、残念ながら今は夏休みのラジオ体操はあまり行われなくなってきている。だから、少なくとも2学期が始まる1-2週間前からはラジオ体操をやることが重要である。不登校の一要因として、夏休みの40日ぐらいの間で不規則な生活をして朝が起きられなくなることが挙げられる。だから中学や高校で夏休みにラジオ体操すれば確実に不登校は減っていくのだが、今小学校でさえラジオ体操が減ってきている。
リズムを朝方に持っていくためにも、是非ラジオ体操を地域で高齢者の方と子どもが一緒に取り組むように、実際そういうところがかなり出てきている。高齢者の方は朝早いので、子どもと一緒にラジオ体操をやればいろいろ教えることもできるし、子どもたちもおじいちゃん、おばあちゃんと一緒にラジオ体操をして優しくなれ、引いては顔見知りになって地域の安全にも繋がる。子どもと高齢者のラジオ体操が地域活性と少子化対策にも繋がる。
(神経発達症と睡眠障害について)
ASD(自閉スペクトラム症)やADHDなど発達障害の子どもは睡眠の問題が多く、不眠症の有病率が60%、他の睡眠障害も50%と多い。睡眠がとれないと発達障害に類似した症状が出やすいが、逆に発達障害の子どもも睡眠の問題を抱えている。
(小児ADHD児と睡眠障害との関連)
床に入るのに抵抗することがADHDの方では有意に多く、寝つきも悪く、夜間の覚醒も多く、朝も起きづらい。そして、子どもの睡眠時無呼吸症候群(SAS)も多く、いろいろな睡眠の問題を抱えていることが示されている。
(ADHDと睡眠)
ADHDの子どもの20-50%ぐらいは小児期に睡眠の問題を抱えていることが分かっている。ADHDの治療薬は不眠を起こす。したがって、ADHDの治療を受けている方は夜眠りづらくなりやすいし、病気自体でも睡眠に問題が起こる。
(自閉スペクトラム症(ASD)と睡眠)
アスペルガー症候群=自閉スペクトラム症の場合も2/3ぐらいが睡眠の問題を抱え、やはり眠れない、昼間我慢できない眠気がある、夜型で朝に起きれないなどが生じる。また、SASなど睡眠障害を抱えているケースが多い。
発達障害の子どもで、睡眠の問題をある程度治療してあげると発達障害の症状が軽くなることがわかっているので、睡眠の問題をどう解決してあげるかが社会生活をする上ですごく大切。
(健康づくりのための睡眠指針2014改訂の必要性)
後半は健康日本21の第3次提言、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(睡眠ガイド)についてお話する。ここでは睡眠の目標値を2つ挙げている。ひとつは「睡眠休養感」、これは朝起きた時にぐっすり寝たという休養感を感じるという自覚的なもので、睡眠の質を表すと言われている。この健康日本21の睡眠の目標値は今までずっとこの睡眠休養感が唯一の目標値で、特定健診の中に入っている唯一の睡眠の項目もこの休養感の有無。もうひとつ今回新たに加わったのが「睡眠時間」である。
※「健康づくりのための睡眠ガイド2023」はこちら
(睡眠ガイド2023)
今回は成人、子ども、高齢者と3つのライフステージごとに目標値を定めている。その目標値を達成するためには、睡眠環境、生活習慣、嗜好品をきちんとコントロールしないといけない。それでも改善しない場合はSASや不眠症など睡眠障害を疑いましょう、と考える仕組み。
(子どもの睡眠に係る推奨事項について)
子ども版を紹介すると、推奨睡眠時間が示されており、1-2歳は11-14時間、3-5歳は10-13時間、小学生は9-12時間、中学、高校は8-10時間。ただ、今高校生で8時間寝てる子どもはほとんどいないと思う。
そして、夜更かしや朝寝坊に注意する、朝起きたら光を浴びる、朝食をきちんと摂る、スクリーンタイムを減らし、昼間は体を動かす、夜は特に床に入ってからデジタル機器は使わない、ということが示されている。
(良い睡眠が子ども・青少年の心身に及ぼす影響)
子どもが成長、発達するために、また子どもが幸福感を感じ、生活の質を高めるためには、やはり睡眠が大事だということ。
(こどもにおける年齢別推奨睡眠時間)
睡眠時間について、1-2歳は11-14時間と申し上げたが、この数字はお昼寝も含めてのもの。お昼寝は1-2歳は1時間は必要で、推奨される、2時間までは許容する。そして3-5歳はお昼寝せずともよいが、する子どもは1時間までは許容し、夜の睡眠時間を合わせて10-13時間が推奨される。
なぜお昼寝が大事か。実は「保育園でお昼寝をする子どもは夜遅くまで起きていて睡眠が十分とれない」ということで「お昼寝追放運動」が、特に東京では以前からかなり盛んに行われてきた。しかし、その結論はここに出ている。上記のお昼寝なら夜の睡眠には悪影響を及ぼさないということ。そして、6歳以上、小学校になったらお昼寝は必要ない。ただし、9-12時間寝ないと当然昼間眠くなったりする。中高校生は8-10時間、こういう睡眠がとれていないと、やはり昼間眠たくなってしまう子どもが少なくない、ということが現状。
(こどものためのGood Sleepガイド)
この睡眠ガイドでGood Sleepガイドという、大人、高齢者、子ども別のパンフレットがあり、わかりやすく書かれている。子ども版の睡眠5原則5箇条というのは、第1原則が睡眠の目標値、続いて睡眠環境、生活習慣、嗜好品、そして第5原則として、それでも寝れない時には病院を受診しようということ。そして、朝起きてから夜までどのような生活していけばよいかが分かりやすく書いてある。(左側に)注意事項として、朝光を浴びよう、朝食は摂ろう、昼間はゲームやスマホは減らして体を動かそう、カフェインの入っているようなコーラやコーヒー、エナジードリンクは少し控えよう、夜更かしは注意しよう、床に入ってデジタル機器はあまり使わないようにしよう、寝室は暗く静かで心地よい温度にしよう、とある。
※「Good Sleepガイド(ぐっすりガイド)こども版」はこちら
(こどものためのGood Sleepガイド(引き続き))
また、「睡眠環境」として、寝る前、寝床の中でのテレビゲーム、スマホはできるだけ控える。部屋は暗くする。床に入ってからデジタル機器を見ると、布団を被ってやったりするので目からの距離が近くなり、よりブルーライトが入ってくる。どうせゲームするなら堂々と、きちんと座って目との距離を少し離してやった方がまだよい。
「生活習慣」では、日中光を浴びよう、昼間は運動してストレスを発散しようと書かれている。また、嗜好品ではカフェインをあまり摂りすぎないようにする。特に、今100ccあたり300mg程度カフェインを含むエナジードリンクを中高校生がよく飲むが、昼間飲んでも夜の睡眠がとれなくなってしまうので注意が必要。
(こどものためのGood Sleepガイド(引き続き))
夜更かしは、先述のとおり成長するに従いだんだん夜型になっていく中で、ゲームやスマホで夜光を浴びるとさらに夜更かしになり、学校に行く子どもは必然的に睡眠不足になり、また学校に行かない子どもは夜更かししても遅寝して睡眠不足にならないが、リズムが乱れてしまうのでいろいろ悪影響が及んでくる。
そして週末の寝溜めとは平日の睡眠不足のために休日に朝寝して補うこと。1時間遅く朝寝すると昼間の眠気が強くなり成績が下がる、というデータを示したが、この遅寝の幅は大人は2時間と言われている一方、子どもは1時間。なぜ2時間かというと、いわゆる時差ボケの定義が「2時間以上時差のあるところを一気に飛行機などで移動した場合に起こるリズムの乱れ」と定義されている。大人の場合は3時間遅寝すれば週末インド旅行、5時間遅寝すればハワイ旅行という具合に社会的時差ボケを生じる。
そして、昼間は運動しようということ。また、スマホなどを使う理由として、ストレスが発散できないと夜スマホを使うのだ、ということもあり、全て取り上げるというのも、それはそれでやはり問題があるということ。
最後に、乳幼児から小学生に上がるまでは寝ぼけたり、夢遊病、おねしょといったものが睡眠の問題として起こってくる。ただ、小学校の高学年ぐらいになってもそうした症状がある場合には病院に行った方がよいのだが、これは睡眠自体の成長段階で起こることなので、そう慌てる必要はない、と一般的には言われている。
(小児健診で睡眠のチェックはおこなわれていない)
これは、子どもの睡眠が大事なので睡眠のチェックはやはり子どもの時から行うべきということ。現状は新生児健診、1歳半健診、3歳健診、あとは小学校に上がる前の健診などがあるが、子ども家庭庁が今さらに5歳児健診に対し援助をしようとしている。
なぜかといえば、就学前健診で発達障害の疑いがあると直前に普通学級に行けないことになってしまい、それは親としては受け入れ難い。それがもう少し前、5歳児時にある程度そのことが分かると、1年ぐらい時間をかけて受け入れる、あるいはそこから治療して、例えば睡眠不足なら睡眠を十分取れば、普通学級に入れる可能性もある。
そして、小中高でも健診はあるのだが、睡眠の健診はない。だから、この睡眠の健診を新生児から1歳半、3歳児、5歳児あたりで導入すると、子どもの成長、発達に大きくプラスになってくるのではないか。母子手帳に、生後2ヶ月-6歳までは子どもの睡眠と保護者の睡眠が入ったので、それを利用しない手はない。小児科の先生に頑張ってもらい、この母子手帳を使う、あるいは保健師さんたちがこの母子手帳を上手に使っていくということが大事だろう。
(令和6年度子ども家庭科学研究費補助金)
子ども家庭庁から補助金が出て、当協会理事の永光先生が代表者を務める研究があり、また、岡明先生という今年まで小児科学会の理事長の先生と、私もメンバーに入っている。子どもの健やかな成長のために切れ目のない支援を行おうということで、ここでは睡眠健診も入れている。子どもの睡眠に関するグループがあり、そこで睡眠に関する健診に向けて、成長、発達と睡眠がどのような関係があるのか、といった調査をする。また、実際この健診では1ヶ月健診と5歳児健診を新たに加えよう、そしてその時には睡眠保健指導をどうしていけばよいかマニュアルを作ろうということで、3年間かけて保健師さんたちが指導できるようなものを作る予定。
子どもを育てる者にとって、子どもの睡眠はすごく大切であるということ。肥満、学校の成績、メンタル面=子供のうつ病、成長、発達に大きく関与しているので、保護者もそうだが、やはり睡眠健診で保健師さんたちが指導していく。そして問題があれば、小児科の先生方がある程度指導し、必要があれば治療していってもらいたい。日本睡眠学会の専門医や専門施設があるので、難しい場合はそこに紹介していただいて、子どもたちの睡眠の問題を早いうちから予防、発見し、そして、介入していくことが子どもの成長発達に繋がるのではないか。そう考えてこのような3年間の研究が始まっている。また、このWGで永光先生から成果を発表していただけるのではないかと楽しみにしている。
(睡眠不足や生活・睡眠リズムの乱れは脳、心および身体の成長を妨げる)
最後になるが、睡眠の不足やリズムの乱れというのは、脳や心、体の成長発達に大きく関係している。子ども本人にも意識してもらいたいが、家族、学校、地域、そして国で考える必要がある。食育というのはあるが、眠育=睡眠教育というのがやはり日本ではまだまだやれているところが少ないので、小学校から取り入れていきたい。それが、子どもの成長、発達だけではなく、大人になってからも健康を維持してQOLを高め、幸福感を向上する上では不可欠である。
我々日本人はやはり睡眠を軽視してきている。1990年代は「24時間働けますか」と、覚えている人もいると思うが堂々とCMをやって、寝ないのが頑張り屋で勤勉な人、良しとする風習が日本にはあった。それを変えていくためには、子どもの教育から変えていかないと、なかなか睡眠の重要性というのは認知できない。
各家庭で睡眠が大切だということを認識してもらうには、両親など養育者も大事だが、やはり子どもたちに睡眠の大切さを教えていくこと。そして、日本全体で睡眠の重要性を共有していきたい。最近は国のトップも睡眠が大事だと言っているので、是非日本国が今後発展、繁栄していくためにも、睡眠で日本を元気づけよう、睡眠から少子化対策を行っていこうということで、是非皆さんが睡眠の大切さを認識していただければと思う。以上である。
【協会概要】 一般社団法人日本睡眠協会
理事長 内村直尚
設立日:2023年7月20日
事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階
HP:https://jsleep.org/
本件に関するお問い合わせ先
日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org