第2回女性の睡眠WG開催のご報告

「睡眠から、人と社会を健やかに。」をキャッチフレーズに、睡眠に関する科学的根拠に基づいた情報の提供と具体的な施策の提案を行うことで、人々の睡眠を、より良いものにし、人と社会を健やかにしていくための活動を推進する一般社団法人日本睡眠協会(理事長:内村直尚、東京都文京区本郷、以下「JSLEEP」)は、2025年 1月31日に女性の健康と睡眠とのあいだの関係を分析・解明していく女性の睡眠ワーキンググループ(座長:八木朝子(久留米大学医学部医療検査学科准教授)、以下「女性WG」)の第2回会合を東京大学アントレプレナープラザ(東京都文京区)において開催しました。

当日は内村直尚先生(JSLEPP理事長、日本睡眠学会理事長、久留米大学学長)から「女性のメンタルヘルスと睡眠」と題してお話をいただきました。冒頭八木朝子WG座長より、多くの皆様にご出席いただいたことへの感謝とともに、本WGの役割などについてあらためて紹介しつつ、今回はメンタルヘルス専門家である内村先生が、女性のメンタルヘルスと睡眠についてお話し、さらなる議論を深めていきたい旨挨拶をいただきました。内村先生のお話の概要は以下のとおりです。



内村直尚先生プロフィール
日本睡眠協会理事長、日本睡眠学会理事長、久留米大学学長。1981年に日本初めての睡眠障害専門外来を開設し、リーダーとして牽引してきた睡眠障害のエキスパート。「地域に貢献できる臨床家の育成」を自らに課せられた役割だとし、現場に強い医師を多く育成してきた。

(睡眠の役割)
睡眠は重要な役割を果たしている。まずこころ・脳・身体の休息、疲労回復がある。ストレスの緩和にも効果的で、睡眠中はストレスを感じない時間となる。また、体温を下げて脳のオーバーヒートを防ぎ、エネルギーを蓄え、成長ホルモンを分泌することで身体の成長、そして美容や老化防止にも寄与する。さらに、免疫力を向上させ、記憶の定着を助ける。このように睡眠は多岐にわたる働きを持つ。

(日本の女性の睡眠状況)
日本人の平均睡眠時間は7時間22分と世界平均と比べて1時間以上短い。また、働いている日本人の40%が6時間未満の睡眠時間である。特に日本の女性は男性よりも睡眠時間が短く、世界の中で最も睡眠時間が少ない。特に40代、50代、60代の女性の睡眠時間が最も短いことが統計データから示されており、仕事や育児の負担、ホルモンバランスの変化などが影響を与えていると考えられる。

(睡眠不足が及ぼす影響)
睡眠不足は、日中の眠気や倦怠感、不安、イライラなど精神的な不安定を引き起こす。また、産業事故や交通事故のリスクを高めるだけでなく、仕事の能率低下や欠勤にもつながる。さらに、肥満、高血圧、糖尿病、心血管疾患のリスクを増加させるほか、うつ病、認知症、がんのリスクも上昇させる。特に女性はホルモンバランスが変化しやすいため、睡眠の質がメンタルヘルスに与える影響が大きい。

(睡眠と肥満の関係)
睡眠時間が短くなると味覚が変化し、甘いものを好む傾向が強まる。また、満腹を感じるホルモン(レプチン)が減少し、空腹を感じるホルモン(グレリン)が増加するため、食欲が増し、肥満につながる。朝食を摂らないと昼食や夕食のカロリーが脂肪になりやすくなるため、規則正しい食事が重要である。さらに、夕食後すぐに就寝すると寝つきが悪くなり、肥満のリスクをさらに高める。

(抑うつと睡眠時間の関係)
睡眠時間が短いほど、うつ病のリスクが高まることが研究で示されている。最も精神的に安定しているのは6〜8時間睡眠をとっている人であり、5時間未満の睡眠はうつ病のリスクを大幅に上昇させる。一方、9時間以上の過剰な睡眠も同様にリスクを増加させることが分かっており、適切な睡眠時間を確保することが重要である。「過労死白書」では、理想の睡眠時間と実際の睡眠時間の差が大きいほど、うつや不安障害のリスクが高まるとされる。

(睡眠と死亡率の関係)
睡眠時間と死亡率を調査した研究によると、6〜8時間の睡眠が最も死亡リスクが低いとされている。5時間未満の睡眠は死亡リスクを増加させ、9時間以上の睡眠も同様の傾向があるU字カーブの関係が示されている。これは、適切な睡眠時間を確保することで健康リスクを軽減できることを示している。

(母子の睡眠とその影響)
2023年4月に改訂された母子手帳には、生後2ヶ月から6歳までの子どもの睡眠と保護者の睡眠に関する記載が追加された。子どもの睡眠が不足すると、発達障害のリスクが上がり、自殺や引きこもりの要因にもなるとされる。また、母親の睡眠不足が産後うつ病を引き起こし、自殺リスクを高めることも懸念されている。さらに、父親の睡眠不足も育児ストレスや虐待リスクの増加に影響するため、家庭全体で適切な睡眠習慣を持つことが重要である。

(体内リズムと睡眠)
私たちの脳や体には25時間周期の体内時計があり、これをリセットして24時間周期にリズムを整える必要がある。そのためには、朝の光を浴びることや規則正しい食事、適度な運動、人との交流、睡眠環境の整備(夜は暗く静かにすることなど)が必要である。特に女性はホルモンバランスの影響を受けやすいため、体内リズムを整えることが精神的・身体的な健康維持に不可欠である。

(ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ))
日本の女性は平日の睡眠時間が不足しているため、週末に遅寝・寝坊をしている可能性は高い。しかし、これにより体内リズムが乱れ、月曜日の朝の目覚めが悪くなるという現象が起こる。このような生活習慣は、週の半分以上にわたって眠気や疲労感が続く悪循環を生み出す。そのため、週末も平日と同じ時間に起床することが推奨される。

(まとめ)
女性のメンタルヘルスと睡眠には深い関係があり、適切な睡眠時間を確保することが心身の健康維持に欠かせない。日本の女性は世界的に見ても睡眠時間が短く、特に40代以降は仕事や育児、更年期の影響を受けやすい。睡眠不足はストレスの増加、肥満、生活習慣病、心血管疾患、うつ病、認知症、死亡リスクを高めるため、規則正しい生活習慣を身につけることが重要である。特に、体内リズムを整え、適切な睡眠環境を作ることが、女性のメンタルヘルス向上に大きく寄与すると考えられる。

以上のような内村先生のお話に現地・オンライン含め約70名のご出席者が熱心に耳を傾け、質疑応答も含め女性のメンタルヘルスと睡眠について理解を深めることができました。

今後、本WGでは女性の睡眠について引き続きテーマ別に座学形式の勉強をして参ります。次回は2025年5月8日に駒田陽子先生(東京科学大学リベラルアーツ研究教育院 教授)にご登壇いただき、女性のライフステージと睡眠(仮題)について解説をいただく予定です。ご関心を持たれましたら随時事務局(下記連絡先)までご連絡ください。

【協会概要】
一般社団法人日本睡眠協会
理事長 内村直尚
設立日:2023年7月20日
事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階
HP       :https://jsleep.org/
X(旧Twitter): https://x.com/jsleeporg
Facebook   : https://www.facebook.com/profile.php?id=61573164333553&locale=ja_JP

本件に関するお問い合わせ先
日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org

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