第2回子どもの睡眠WG開催のご報告

「睡眠から、人と社会を健やかに。」をキャッチフレーズに、睡眠に関する科学的根拠に基づいた情報の提供と具体的な施策の提案を行うことで、人々の睡眠を、より良いものにし、人と社会を健やかにしていくための活動を推進する一般社団法人日本睡眠協会(理事長:内村直尚、東京都文京区本郷、以下「JSLEEP」)は、2024年 6月14日、世代別のWGのうち子どもの睡眠に特化して理解を深めていくことを目指す子どもの睡眠ワーキンググループの第2回会合を東京大学本郷キャンパス内(東京都文京区)において開催しました。当日はオンラインを含め20名を超える方々にご出席いただきました。


                

 当日は当協会理事の原浩貴先生(川崎医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授)から「子どもの睡眠障害 ―睡眠時無呼吸(SAS)を中心に―」と題して、睡眠に関連する疾患の早期発見・早期治療が子どもの発育・発達にとって大変に重要であるところ、そうした疾患について、そのうち特に有病率(ある一時点において、当該疾病を有している人の割合)の高い子どもの睡眠時無呼吸症候群(SAS)を中心に、当該疾患の臨床にもあたるお立場から大変わかりやすい解説をいただきました。概要は以下のとおりです。

 

 

先日厚生労働省がとりまとめた「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」から、子どもも含め良質な睡眠には十分な量と質の確保が必要であること、不適切な睡眠環境や生活習慣・嗜好品のとり方が睡眠を損なうことが重要であること。そして、このように睡眠の質をよくする努力をしてもなお上がらない場合は睡眠障害が潜んでいる可能性があるので速やかに医療機関を受診すべきこと。また、子どもは大人以上に規則正しく十分な長さの睡眠を心掛けることでこころとからだの発達に繋がる。

 

その睡眠障害の代表が睡眠時無呼吸症候群(SAS)である。本日は、(1)「小児のSASのインパクト」、(2「)診断と治療」として、①医師とcare giverとの協力の重要性、②「治療法の紹介~ゴールとは何か?、(3)「早期発見・介入のための取り組み」として、就学時健診・学校健診との連動、という構成である。

 

 (小児のSASのインパクト)

  • 飲み込みと息をすることの両方に利用されているのど(咽頭気道)が、息を吸い込む時の陰圧に負けて潰れる。
  • その結果、無呼吸や十分に息が吸えない状態が起きる。
  • 酸素が不足したり、二酸化炭素が溜まるため、睡眠が分断される。
  • 扁桃腺が大きかったり、鼻と喉の堺にあるアデノイドが大きいと重症になる。
  • 軽症の原因は、アレルギー性鼻炎によりしっかりと呼吸ができないこと。
  • 診断基準は、平たくいえば、①睡眠中に毎日のようにいびきor無呼吸or日中の眠気・行動学習異常がある、②検査をすると1時間に1回以上無呼吸・低呼吸がある。
  • 成長障害(3~4歳頃から影響が顕著に)や神経認知機能の発達(2歳頃から影響あり)、代謝系もしくは心血管系への影響、または夜尿など小児の発育・発達に影響を与える。
  • 口呼吸の習慣が成人になってからのSASに繋がるので、子どもの頃からの対策として、「お口ぽかん」=口呼吸をやめましょう、と言っていくのは重要。
  • 小児OSAの合併症として、成長障害(→早期の治療介入が望ましい)、学習困難、多動・攻撃性などの日中の異常行動、病的なはにかみやひっこみ思案などが挙げられ、学業成績含め治療(早期介入)による変化も見られる。一部は発達障害の臨床症状と重なることが多い。



原浩貴先生プロフィール

川崎医科大学  耳鼻咽喉・頭頸部外科学 主任教授、日本睡眠学会 理事、日本小児耳鼻咽喉科学会理事、日本口腔咽頭科学会理事(いびき・睡眠・嚥下分野担当)
睡眠に問題を抱えている子どもに向き合い、少子超高齢社会において子どもの睡眠を守り、心身の健やかな発達を促すことが何より大切だと考え、未就学児を対象にした睡眠時無呼吸症の新しい治療に取り組む。また、いびき音の解析を研究テーマとし、睡眠時無呼吸症に対する新しい診断法の開発にも取り組んでいる。
「いびき音の音響解析を睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査法の開発」で第44回宇部興産学術振興財団渡辺記念特別奨励賞(2004年3月)受賞。

 

 (診断と治療(医師とcare giverとの協力の重要性、治療法の紹介~ゴールは何か?)

  • 注目すべき臨床症状として、アデノイド顔貌・口呼吸、低身長・低体重/食事に時間がかかる、行動・認知の問題・学習障害、睡眠中の習慣的ないびき、シーソー呼吸、下顎拳上などの異常姿勢を挙げることができる。
  • 小児OSAの夜間の症状としては、いびき、睡眠中の苦しそうな呼吸、無呼吸、睡眠中の落ち着きのなさ、不自然な睡眠体位、奇異呼吸など複数挙げられるが、確認には保護者の協力が必要で、そのために保護者の啓もうも必要となる。
  • また、同じく日中の症状としては口呼吸、鼻閉、早朝の頭痛、寝起きの悪さ、問題行動や日中の眠気があるが、こちらも確認には保護者、保育士、教師などの協力が必要である。
  • 小児のOSAのリスク因子として、鼻・咽頭部分の呼吸路の狭窄、つまり、口蓋扁桃肥大、アデノイド、アレルギー性鼻炎がある。その他下顎骨低形成、肥満もある。
  • 診断(フローチャート):お子様の口を覗いて確認してみていただきたい。

  • 小児OSAの治療としては、重症でアデノイド・口蓋扁桃肥大がある場合は手術(アデノイド切除+口蓋扁桃摘出術(最近では欧州で主流となっている高周波メスの使用も))、軽傷あるいはアデノイド・口蓋扁桃肥大がない場合は通院治療による鼻の治療となる。
  • いずれの場合も治療のゴールは正常な鼻呼吸の回復=「お口ぽかん」が直っていること。術後は発育の改善が見込まれるが、重症・軽傷問わず早期発見・早期介入が望ましい。自分が研究したところ、手術に関しては就学前の5歳前後でやらないと身体の発育が十分でなくなる、という結果が出ている。
  • もうひとつのリスク因子で、有病率の高いアレルギー性鼻炎は鼻呼吸障害の主因となりつつある。成人、小児ともに通年性アレルギー性鼻炎で睡眠の質の障害が起こる。睡眠課題のある小児の場合はOSAを発症していなくてもレム睡眠が減少する。
  • アレルギー性鼻炎は睡眠の質の低下やOSAの原因となる一方で、OSAによって活性化される炎症性ケミカルメディエーターがアレルギー性鼻炎を憎悪させるという負のサイクルをもたらす。

 

(早期発見・介入のための取り組み―就学時健診・学校健診との連動―)

 アレルギー症状と罹患率、睡眠QOL調査を目的として、私が赴任した2017年から岡山県に浅口市と浅口郡里庄町で就学時および学童期(2-6年生)対象に疫学調査(つばきプロジェクト)を行っている。

 本疫学研究の結果のポイントは以下のとおり

  • 3,4歳児の4割以上は22時以降に寝ている。そして小学校3年生から寝る時間が遅くなる。都会はもっとひどいのかもしれない。
  • 年齢が上がるに従いアレルギー性鼻炎の罹患率は上昇する。特に小学校低学年以降アレルギー性鼻炎は増加している。
  • 10%は睡眠障害を有する可能性がある
  • アレルギー性鼻炎を有するとOSA-18の全てのカテゴリーが悪化していた。
  • 小児アレルギー性鼻炎があると、睡眠障害・身体障害は健常児童よりも悪化し、情緒・日中の生活は感情的に不安定であり、集中力低下、昼間の眠気が生じる、また保護者は子どものみならず保護者自身の日常生活にも不安を抱いていることがわかった。

  《小児OSAの早期発見のための就学時・学校健診の有効利用》

  • 就学時・学校健診にスクリーニング機能を持たせることで、早期発見早期治療に繋げることが理想
  • 質問紙票はある程度まで有効である。難しければ配るだけでも。
  • 健診時にウェアラブルデバイスその他のデータロガーを用いて客観的にデータを収集することができれば、適切な治療介入のタイミングを指導することも可能になる

 

 (小児OSAの治療のおけるポイント) 

  • 小児OSAが小児の発育発達へ及ぼす影響を啓もうすることが必要。
  • 診断と治療はcare giverの関与が必須
  • 治療者側も、十分な知識をもって診療する

   1.治療の目標を明確にする

    いびき・睡眠中の呼吸障害  身体発育・顎顔面形態発育

    神経認知機能・発達の問題  心血管関連・夜尿などの合併症

   2.鼻呼吸障害の有無を常に念頭に置く

   3.手術は治療のゴールではなく、正常鼻呼吸を習得させることが重要

  • 就学時・学校健診にスクリーニング機能を持たせることで、早期発見早期治療に繋げることが理想。

 

以上のような原先生のお話に現地・オンライン含め20名を超えるご出席者が熱心に耳を傾け、子どもの睡眠障害について理解を深めました。

 

今後、本WGでは子どもの睡眠について引き続きテーマ別に座学形式の勉強をして参ります。次回は本年秋を目途に内村直尚先生(当協会理事長、日本睡眠学会理事長、久留米大学学長)にご登壇いただき、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」の3.睡眠に関する推奨事項のうち、「こども版」のパートについて解説をいただく予定です。ご関心を持たれましたら随時事務局(下記連絡先)までご連絡ください。

 

【協会概要】

一般社団法人日本睡眠協会

理事長 内村直尚

設立日:2023年7月20日

事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階

HP:https://jsleep.org/ 

 

本件に関するお問い合わせ先

日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org

 

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