第1回女性の睡眠WG開催のご報告

「睡眠から、人と社会を健やかに。」をキャッチフレーズに、睡眠に関する科学的根拠に基づいた情報の提供と具体的な施策の提案を行うことで、人々の睡眠を、より良いものにし、人と社会を健やかにしていくための活動を推進する一般社団法人日本睡眠協会(理事長:内村直尚、東京都文京区本郷、以下「JSLEEP」)は、2024年 10月11日、世代別のWGのうち、女性の健康と睡眠とのあいだの関係を分析・解明していく女性の睡眠ワーキンググループ(座長:八木朝子(久留米大学医学部医療検査学科 准教授)、以下「女性WG」)の第1回会合をLMJ東京研修センター(東京都文京区)において開催しました。


                
 当日は池上あずさ先生(社会医療法人芳和会 くわみず病院院⾧)から「女性の睡眠時無呼吸症候群(SAS)~女性のより良い睡眠と健康のために~」と題して、「隠れSAS」という言葉に象徴されるように、診断、治療に漕ぎつけにくい女性の睡眠時無呼吸症候群(SAS)を中心に女性の睡眠をめぐる現状をお話いただきました。概要は以下のとおりです。

【八木朝子WG座長(当協会理事)ご挨拶】
日本人の睡眠をめぐる状況は芳しくなく、先進国比で最悪で、なかでも女性と子どもの睡眠は特に状況がよくない。そもそも、我が国において女性の健康問題は大変プライオリティが高く、社会の注目が集まる分野である。当協会としても女性WGを設置し、今回のような勉強会を何回か重ね、女性の健康と睡眠とのあいだの関係を分析・解明し、同分野において積極的に議論をリードし政策提言に繋げていければと考えている、
それにあたり、いろいろな皆さんにご参加いただき、そうした情報を多くの企業や地域で役割を担う皆様にも発信していきたい。そして、皆様には是非さらに各会社や各地域に還元していただきたく、そのような機会を提供できれば幸い。
講師の池上先生をご紹介する。記念すべき第1回WGにご登壇をお願いした。池上先生は社会医療法人芳和会くわみず病院で2012年より院長を務め、専門は睡眠及び呼吸器内科、特に日頃から周産期や更年期を含めた女性の患者様をたくさん診ているが、それと同時に研究もされ、第一人者である。
また、くわみず病院には睡眠医療センターがあり、そちらでは特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)を含めた睡眠関連疾患の治療を行っている。先生には特にSASについてお話いただきたい。SASは男性のみならず女性も含め、睡眠障害の中では有病率の高い疾患と言われるものの、性差医療の中でも、女性のSASはなかなか取り上げられていない状況で、潜在患者はたくさんいると思う。従って、そうした話題を第1回にもってきている。

【池上あずさ先生】
当院くわみず病院は熊本市、有名な水前寺の隣、神水(くわみず)地区にある100床の小さな病院だが、特徴としては、熊本県で唯一の日本睡眠学会の認定施設として睡眠センターを設置しており、また総合診療の研修医の基幹施設でもある。睡眠センター立ち上げと同じタイミングで女性外来を始めた。


池上あずさ先生プロフィール
社会医療法人芳和会 くわみず病院院⾧(2012 年より現職)。専門は睡眠及び呼吸器内科で、周産期や更年期を含めた女性の睡眠研究の第一人者。同病院睡眠医療センターでは、SAS を含めた睡眠関連疾病の治療を行う。

(女性特有の健康課題による社会全体の経済損失(試算結果))
女性特有の健康問題による経済的損失が、社会全体で3.4兆円と試算されている。うち、女性の更年期症状に関しては損失が1.9兆円と言われている。
本件は雑誌の特集でも取り上げられており、同じく月経随伴症が0.6兆円、婦人科がんが0.6兆円、不妊治療が0.3兆円と言われている。また、更年期障害を理由に仕事を辞めた方が17%、辞めようと悩んだ方も19%いる。同じく昇進を辞退したことがある人が半分以上いて、考えたことがある人も含めると7割ぐらいの人は、昇進の際に更年期症状があるとやはり「できない」と考えたということ。

(性差医療の正しい理解 女性の健康への意識の高まり)
日本では2000年代に性差医療が言われだした。いろいろな疾患で明らかに男女の違いがあるにも関わらず、薬の治験段階から男性と女性を分けるようなことは今もほとんどないが、そのぐらいほぼ男女の違いは考慮されていなかった。それではいけないということで、循環器の天野惠子先生が第一人者として日本に紹介したのが性差医療という概念。
当時胸痛を訴えて病院に行った女性たちが「それは更年期症状だ」、「気のせいだ」とあしらわれていた。しかし、きちんとカテーテル検査をすると、やはり冠動脈のスパスム、異常収縮する現象が起きており、その原因がエストロゲンの減少により起こる末梢の血管の動脈硬化だとわかり、やはり性差をふまえてきちんと診断をすることが必要だとなった。

(成長と睡眠の質の変化)
まず、生まれたばかりの赤ちゃんは16時間も寝て、年齢とともに生理的にだんだん短くなってくる。注目すべきはレム睡眠で、生まれたての赤ちゃんは16時間のうち半分がレム睡眠。
つまり、レム睡眠というのは、やはり脳を活動させている睡眠で、非常に脳の成長に重要な役割を果たしている。そして、成人になっても概ね20%ぐらい、高齢者になるともう少し減るが、常にレム睡眠はある。

(すべての年齢層で女性は男性より睡眠時間が短い)
NHKによる数字(2001年)によれば男性と女性の睡眠時間の差は明らかで、女性は全ての年齢層で男性より睡眠時間が短い。特に短いのが30、40、50代、つまり子育て期で、特にお弁当を作らないといけない世代。多くの女性は今でもこんな感じだと思うので、やはり日本はジェンダー指数がすごく下の方で、そこに集約される。

(中年成人(働く人)の睡眠時間・睡眠休養感と死亡リスクの関連)
しかし、睡眠は時間さえ長くとればよいという問題ではない。「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を見ると、海外だが、睡眠時間もさることながら、睡眠休養感=朝起きた時に「ああ眠れた」という感覚、その有無が死亡リスクと関連しているということがわかってきた。
例えば、睡眠時間が短い方が死亡リスクが上がるというのは確かにそうで、7時間ぐらい寝るのが一番死亡リスクが低い。ただ、7時間睡眠をとったとしても、睡眠休養感がある方がやはり死亡リスクはさらに低くなってくる。

(世代別の睡眠に係る推奨事項)
そうしたことも踏まえ、今回の睡眠ガイドでは睡眠時間をそれぞれ年代別、高齢者、成人、子どもに分けている。特に大事なのが、やはり成人は6時間以上を目安とし、できたら7時間を取って欲しいということ。また、睡眠環境や生活習慣、そして睡眠障害、無呼吸といったものが潜んでないかをきちんと診断することも重要。
他方、逆に高齢者の方は布団に入りすぎで、床上時間8時間以上の方が死亡リスクが高い。

(日本人女性の妊娠経過にともなう睡眠習慣と睡眠問題)
熊本に福田病院という地域の周産期医療センターの指定を受けた、年間出産数3,600人で日本一赤ちゃんが生まれる病院がある。理事長の福田稠先生が自分のお母様の出産の際、放置された姿が非常につらそうに見え、「(女性を)あのような目に遭わせない、出産のための母と子の病院を作りたい」というコンセプトでできた病院。

(調査対象と内容)
福田病院は出産数がとても多いため、こちらで妊娠した女性を対象に睡眠習慣と睡眠時間を調べた。調査はコロナ禍の2021年3月-11月にかけて同院に通院中の妊婦さん683名と、産後1週間以内の386名に対してピッツバーグ睡眠質問票という疫学調査でよく使う不眠症の質問票、そしてSASの質問票であるベルリン質問調査票による2つの調査を実施した。同時に、妊娠何回目であるか、不妊歴がないかなども調査した。

(調査参加者の概要)
概要としては、妊娠中期が223人、後期が453人、そして産後が386人とn数はかなり多い。日本で妊婦さんに対する睡眠の調査でn数がこのように多いのは初めてだった。

(ピッツバーグ睡眠質問票の内容)
ピッツバーグ睡眠質問票とは、睡眠のうち不眠症に対して7つの具体的な質問をする。
特に「睡眠の質」で、これはぐっすり眠れたかどうかという主観的なもの。「入眠時間」は、入眠時とも言うが、寝るまでにかかった時間。その他、中途覚醒や「睡眠効率」、それから「日中覚醒困難」は昼間の眠気のこと。こうしたものを総合的に点数化して21点満点中6点以上を睡眠障害としている。

(ベルリン質問票(睡眠呼吸障害の有無))
ベルリン質問票は、いびきの有無、高血圧の有無、疲れやすさなど。この質問票で陽性カテゴリーが2つ以上あるとSASの疑いが高くなる。

(EPDS質問項目)
この2つともうひとつ、妊娠女性で今一番問題になっている産後うつに関するものがある。まだ新生児のうちにうつになって自死するお母さんがいることは非常に問題で、それと睡眠との関連がないかを私たちは一番見たかった。
それで、過去1週間の気分について質問し、合計点が9点以上は産後うつの可能性が高く、特に質問項目の中で10番目「自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた」は、例え合計1点であってもこれが該当すれば深刻である。

(産後うつ有症率)
産後うつの有症率を見てみると、分娩直後が74人で11.7%。産後1ヶ月後になるとやや少なく6.2%になっていた。そして産後うつを分析すると、約半数が分娩直後から抑うつを示し、約半数が1ヶ月後に新規に発症する可能性がありとなった。

(分娩直後ならびに産後1ヶ月の抑うつ症状に及ぼす妊娠中のPSQI得点の影響)
PSQI(Pittsburgh Sleep Quality Index)は先ほどの「ピッツバーグ睡眠質問票」で、不眠との関係がないかどうかを見るが、これは「大あり」だった。ただ、もともと妊娠前にうつ病がある、年齢が高い、それから同居家族が少ない方が鬱にはなりやすい点を調整していない場合が上、調整した場合が下である。
特に妊娠後期のうつの傾向がある人たちは、産後うつの可能性が高くなると、妊娠中の、特に主観的な睡眠の悪さが抑うつ症状に有意な関連を示した。やはり妊娠時に眠れないということを訴えるお母さんがいたら、もうその時点で即何らかの手立てをした方がよい。

(妊娠中期における睡眠呼吸障害の高リスク者と低リスク者のアプガー指数)
もうひとつ、アプガーといい赤ちゃんが生まれる時に、例えばチアノーゼで生まれた赤ちゃんである点などを点数化するものがある。そのアプガー指数が低いほど危険な赤ちゃんということになるが、SASの有無との関係を調べると、妊娠中期は分娩5分後のアプガーで有意差が出た。つまり、睡眠呼吸障害の可能性が高い人ほど産まれた赤ちゃんのアプガーが低い。

(妊娠後期における睡眠呼吸障害の高リスク者と低リスク者のアプガー指数)
妊娠後期になると、1分後も5分後もそれぞれ調べているが、当然ながら5分後の方が良くはなっていく。どちらも、睡眠呼吸障害の可能性がある方がアプガーが有意に低くなった。これは、妊娠中に睡眠呼吸障害があると分娩のリスクにつながる可能性がある、ということを意味すると考えられる。

(SAS発症率)
グローバルで見たSASの発症率はだいたい男女比3:1くらいで、これがAHI15以上=中等度以上になると2:1ぐらい。ところが、日本のデータはどこの施設もまだ概ね8:1、当院でも概ね4.5:1~5:1くらいで男女の発症率にグローバルより大きな差が出ている。
なぜなら、まず女性はあまりいびきを訴えず、周りに言われても隠したがって自分から言いに来ない。また、症状が不眠、うつ、動悸、日中の倦怠感や、頭痛、不安といった不定愁訴が非常に多く一般的なSASとリンクしない。それで、女性のSASは医療機関や周りの人たちが誤診断や未診断する可能性がある。これは日本だけではなくて海外でも言われている。

(女性SAS VS 更年期障害)
そこで症状だけピックアップしてみる。グローバルでの女性SASの症状では、疲労/倦怠感が一番に来る。そして不眠症(入眠障害と中途覚醒)、抑うつ(不安/気分障害)、朝の頭痛と、本人は申告しないが実はいびきがあること、あるいは実は眠気があって無呼吸と言われていた、ということがある。
一方で、日本女性医学学会会(元・日本更年期医学会)による更年期症状の発現頻度を見ると、日本人らしく一番に「肩こり」が来る。海外では倦怠感=「疲れやすい」が一番に来る。それから、頭痛、のぼせ=ホットフラッシュ、汗をかく、不眠。
以上のように、SASと更年期障害は非常に似ている。だから今の日本人女性の多くは不眠、頭痛、イライラ、倦怠感などについて、更年期障害で片付けられてるのではないか。

(当院SASの年齢/BMI分布)
当院での男女の差で、ポリグラフ(以下「PSG検査」)で確定診断をしたベースで年代別の患者数をみると、男性は30代から増えてきて、50代をピークにだんだん減ってくる。ところが、女性は50代になって急増して2倍以上に増えていく。そして60代も増えて、70代以降やや減っていく。同じく男女の年代別のBMIを見ると、20-30代の方が女性の方が体重は上=太っている。つまり、女性のSASは若いうちは太っている人がなりやすい一方、年齢が上がってくると更年期以降の問題によって起こってくる。

(f-SAS round)
私たちは2022年度から(実際2021年度から)、レスメドジャパン及びグローバルのご協力を得て、”f-SAS round”を立ち上げ、八木先生含め睡眠センターを持っている医療機関の先生たちが4名集まり、女性のSASをどのように研究し、認知していこうという取組を始めている。

(女性SASの特徴:男性SASとの比較)
当院データで年齢、BMI、睡眠の構築を、それぞれ年齢と重症度で見る。まず男女間では同じ年齢なら男性の方が重症、そして同じBMIなら男性の方が重症。
睡眠ステージというのがあり、N1、N2は浅い睡眠だが、ここでは全ての重症度(超重症、重症、中等症、軽症、正常)において、男性の方が睡眠が浅い。N3、深睡眠はどの重症度でも女性の方が多く、深い睡眠が取れている。つまり、女性のSAS患者は男性のSAS患者と比較すると、同じ重症度であれば、睡眠に対して恵まれており、睡眠に対して有利とということが示される。

(女性SASの特徴)
女性のSASと非SASを分けると、男性同様、女性のSASも高血圧、糖尿病、脂質異常症の合併頻度が有意に高い。体重も重く、糖尿病にもなりやすく、脂質異常症、そして特に高血圧で、女性のSASは全て有意にそうした動脈硬化性の病気を合併する。

(女性SASの特徴(つづき))
虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)について、男性に比べて女性の方が、そして重症であればあるほど有病率が高くなる。つまり、重症SASが、男性よりも虚血性心疾患のリスクが高くなる。

(女性SASの特徴:女性の方はAHIは低い)
2008年に私たちは「OSA患者の性差による睡眠構築の比較」という研究でSASの患者さんについて性差をふまえて睡眠構築を調べた。当センター長の福原明先生が解析された。
マッチングという手法で、年齢と体重(BMI)が同じ男性と女性とをグルーピングしてマッチングする。すると、年齢とBMI(体重)が同じ男女間では女性の方がAHIが低く、SASは軽く、しかも睡眠構築も良いという結果になった。
ここまで見たところで、「やはりSASに関しては女性の方がよいのか」と思ったが、いろいろ調べていくうちに決してそうではないということが分かってきた。

(女性SASの特徴:女性の方は低呼吸が多い)
そしてさらにAHI、重症度も一緒にマッチングしたデータをみると、年齢、BMI、AHIが同じでも男性の方が女性より閉塞性無呼吸が多い。「無呼吸」と一口にいっても閉塞性「無呼吸」と閉塞性「低呼吸」とがあり、女性は「低呼吸」優位(※)だということがわかる。
(※)睡眠時無呼吸症候群は「睡眠時」に「無呼吸」や「低呼吸」を繰り返す疾病である。

(2施設間における女性のPSGの特徴)
先ほどの”f-SAS round”でご一緒した北九州の霧ヶ丘つだ病院さんのデータと比較したところ、やはり同じようなことが言えて、「無呼吸」のタイプは低呼吸優位である。そしてもうひとつ女性に特徴的なのは、REM期に依存するイベントが多く、比較的酸素飽和度などはあまり下がってない。だから、PSG検査でみた場合一見すると女性の方がやはり軽い、と言える。

(REM related SDB: Influence of Age and)
レム睡眠が非常に重要だという基礎的なデータが今どんどん日本から出ている。レム睡眠の時に無呼吸が特に起こる割合を年代別に見ると、男性はどの年代でも概ね20%台なのに対し、女性は最初18-29歳ですごく多いが、だんだん減っていく。減ってはいくが、ずっと男性より多い。50-54歳から55-59歳にかけて突然減っているのがちょうど更年期にあたる。更年期から老齢期に入るとガクンと男性型になっていく。

(背景-女性OSA 隠れSAS!!)
女性のSASのまとめだが、症状が更年期障害の症状と非常に似ている。それからPSG検査で見ると、一見少々軽いと思え、またREMに関連した無呼吸が多い。そして、解剖学的なことも男性と女性では違う。
そして特に違うのが、このプロゲステロンとエストロゲンで、2022年にヨーロッパで出されたデータでは、両者の濃度が高ければ高いほどいびきは減っていくという。従って、「女性の方がいびきをかかない」というのは、実はエビデンス的にも正しいのだろう。なぜなら女性ホルモンがあって、それが呼吸を守ってくれるということ。
ただ、一方で症状が様々なので、見逃される危険性がある。

(女性SASの優位性)
女性の方が確かに気動虚脱を防ぐ利点を備えている。それからレム睡眠では筋肉がだらんと弛緩するので、通常は夢を見ていても声は出せない。そして弛緩しているから無呼吸は実は起きやすい。
しかし、女性は女性ホルモンの作用があって、ノンレム睡眠の時はその作用で無呼吸になりにくいのだが、レム睡眠に移行した途端、筋肉が弛緩してそちらの力が強く無呼吸が出る。つまり女性はレム睡眠の方がSASが多い(優位)と言える。ところが、更年期以降女性ホルモンの作用がなくなると、ノンレム後期でも無呼吸が出てくる=男性型の無呼吸になる。それから、レム睡眠時に無呼吸が多いのも実は問題である。現在、基礎研究分野においては東大の林悠先生らがレム睡眠短縮と認知機能低下、レム睡眠におけるストレス回避の可能性などレム睡眠が重要であるとする研究結果が報告されている。

(レム睡眠の重要性①)
疫学調査では、レム睡眠が少ないと、「全死因」、「循環器疾患」、「がん」による死亡のリスクが上昇する。また、認知症になった人の特徴として、レム睡眠の不足を認めた。それから、アルツハイマー病のモデルマウスを作るとレム睡眠の低下が著しいほど記憶・学習能力も低下する。そして、レム睡眠の時にはMCHニューロンが出る。私は勝手に「記憶の断捨離ニューロン」と言っているが、これがあった方が記憶を整理するというニューロン。
よく寝ると朝からすっきりするのは、脳をきちんと整理してくれるということ。だから、レム睡眠というのは非常に大事だが、成長ホルモンを出すノンレム睡眠ももちろん大事。

(レム睡眠の重要性②)
SAS=無呼吸の治療にCPAPを使うと驚くべき効果が出る。これが当院の重症SASの患者さんのPSG検査の結果で、黄色と緑の部分がそれぞれステージ1と2で、浅い睡眠にあたる。そしてレム睡眠は茶色で短い。深睡眠がバーっと出るのはだいたい小学生ぐらいまでの子どもたちなのに、CPAPをすると大人であっても深睡眠が長くなり、さらにCPAPを装着した初めての日は反跳性レムといいレム睡眠が伸びる。
初めてCPAPを受けた人のコメントとして「視界がすごく鮮やか」、「人生が変わった」などあるが、要するに熟睡して脳がクリアになるのである。

(OSAフェノタイプとCPAP治療の失敗リスク)
そういうことで、是非CPAPを使っていただきたい。ただ、CPAPにはアドヒアランスというのがあり、CPAPを毎日4時間以上、さらに1ヶ月間の70%以上使うのがアドヒアランス良好と言われる。
海外の論文では「女性の方が多いとCPAPを使いにくい」というデータが出ているが、私としては、そうでもなく、適切な使い方、CPAPのモードを選ぶということが大事だろうと思っている。

(CPAP開始時 Fモード導入例 症例52歳女性)

例えば当院の52歳女性の症例で申し上げる。この方の主訴はいびきがひどくなったこと、そして集中力が低下したことを大変強調していた。現病歴は、2012年、40歳時に当院でPSG検査をして、AHIが13.9、ということで軽症のSASと診断し、OA(Oral Appliance、マウスピース(口膣内装具))を勧めるも治療には至らなかった。
それから10年が経過、更年期になり、いびきがひどくなり、昼間の集中力の低下があったので、また来院してPSGを再開した。この方は眠気の指数は8点で、そこまで酷くはないが、まあまあ眠いかなという感じ。ご職業は学校教員だったと思う。そして大事なのは体重は52kgで、BMIが20.8と、10年前と全然変化がない。そして扁桃肥大などもなく、いびきは家族から言われ本人も自覚し、睡眠時間は6-7時間と取ってはいる。中途覚醒が2、3回あるが、やはり昼間がきついということでPSG検査をした。

(PSG検査(ベースライン))
PSG検査を始めたら、やはりこの方も女性の特徴のとおり無呼吸より低呼吸の方が多い。酸素もそこまで下がっておらず一番低いところで88%で、例えば肥満の方は、酸素が著しく下がると50-60%ぐらいまで下がる方はザラにおり、さほどではない。ところが、一方でAHIが31.7と、10年前の13.4から倍増し、無呼吸が悪化している。これは女性ホルモン減少により無呼吸が悪化した典型的な例になる。中途覚醒も多く、睡眠構築も非常に悪い。

(2024.2.24症状出現し、myAir使用後本人希望で圧変更)
この患者さんにレスメドさんの(CPAPの)Fモードを導入した。そしてCPAPを9割以上使ってAHIは3.1になった。30回以上あったものが5以下に下がったということ。また、フローリミテーションという女性特有の呼吸制限が綺麗になくなった。
このアプリをご自分の携帯に入れると、自分がCPAPを何時間使っていて、呼吸のイベントが今どのくらいかといったこともわかるようになっている。患者さんにとってはこういうものがわかると非常に励みになる。

(女性はCPAPが使用しづらい?)
CHESTという呼吸器の論文で、そこの2022年のデータで見る。どの年齢層も男性の方がアドヒアランスはよい。女性はやはりCPAP使用のしづらさはあるとは思うが、当院では適正なモードを使う等すればアドヒアランスがかなり改善する、というデータも出ている。

(まとめ)
女性の睡眠と健康を守るためには、SASはどの年代でも起こりえるのだが、特に妊娠期と更年期の2つの時期におけるSASの診断、治療が重要なポイントとなる。女性のSASは症状が更年期と重なっており本人も周囲も医療者側も気づかないために放置されている。
本人や家族だけでなく、医療従事者からしてSASをご存じない方も多く、私はこれを「隠れSAS」と呼んでいる。こういう状況があるので、正しい診断と治療で睡眠と健康を取り戻すことができればと考えている。以上である。

以上のような池上先生のお話に現地25名・オンライン25名で合わせて約50名のご出席者が熱心に耳を傾け、女性のSASについて理解を深めました。

今後、本WGでは女性の睡眠について引き続きテーマ別に座学形式の勉強をして参ります。次回は2025年1月31日に内村直尚先生(当協会理事長、日本睡眠学会理事長、久留米大学学長)にご登壇いただき、女性のメンタルヘルスと睡眠(仮題)について解説をいただく予定です。ご関心を持たれましたら随時事務局(下記連絡先)までご連絡ください。

【協会概要】
一般社団法人日本睡眠協会
理事長 内村直尚
設立日:2023年7月20日
事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階
HP:https://jsleep.org/
X(旧Twitter): https://x.com/jsleeporg

本件に関するお問い合わせ先
日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org

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