春の睡眠の日特別セミナー開催のご報告
「睡眠から、人と社会を健やかに。」をキャッチフレーズに、睡眠に関する科学的根拠に基づいた情報の提供と具体的な施策の提案を行うことで、人々の睡眠を、より良いものにし、人と社会を健やかにしていくための活動を推進する一般社団法人日本睡眠協会(理事長:内村直尚、東京都文京区本郷、以下「JSLEEP」)は、2026年3月12日(木)に「春の睡眠の日特別セミナー」をTAKANAWA GATEWAY Convention Center(東京都港区)において開催し、当日は現地100名、オンラインで90名のご出席を賜りました。
今回は「睡眠障害の標榜実現に向けて」をテーマに、第1部では特別講演として、当協会理事長の内村直尚 先生(久留米大学理事長・学長、日本睡眠学会理事長)から「『睡眠障害』の標榜実現に向けて ―睡眠医療の発展と今後の課題―」と題して、第2部では関連講演として当協会事務局長の宮原禎から「睡眠障害(科)が産業に与える影響 ―睡眠医療の拡大と新たなヘルスケア市場―」と題してそれぞれお話をいたしました。それぞれ概要は以下のとおりです。
第1部 内村直尚 先生
「『睡眠障害』の標榜実現に向けて ―睡眠医療の発展と今後の課題―」
睡眠障害が国民の健康や社会経済活動に与える影響が極めて大きいにもかかわらず、日本ではこれまで睡眠医療の専門性が十分に社会に認知されてこなかった。その背景には、睡眠医療が精神科、呼吸器内科、循環器内科、耳鼻咽喉科、神経内科、小児科など複数の診療科にまたがる領域であり、専門性が見えにくかったことがある。
睡眠障害は、不眠症、睡眠時無呼吸症候群、過眠症、概日リズム睡眠障害、レストレスレッグス症候群など多岐にわたり、その患者数は非常に多い。厚生労働省の調査でも、日本人の約5人に1人が睡眠に問題を抱えているとされ、特に慢性的な睡眠不足や不眠は、うつ病、認知症、生活習慣病、心血管疾患などのリスク増大とも深く関係している。また、睡眠不足による生産性低下や事故リスクの増加など、社会経済的損失も極めて大きい。
しかし、これまで多くの方々にとって「睡眠障害をどこで診てもらえばよいのかわからない」という状況が続いていた。睡眠医療を専門とする医療機関であっても、標榜科として「睡眠障害」を掲げることができなかったため、患者が適切な医療機関へアクセスしにくいという課題があった。そのため、日本睡眠学会を中心に、厚生労働省への働きかけを行い、「睡眠障害」を診療科名として標榜可能にするための活動が進められてきた。
今回の標榜実現は単なる名称変更ではなく、日本の睡眠医療における大きな転換点になる。今後は、地域の医療機関でも「睡眠障害内科」「精神科(睡眠障害)」などを掲げる動きが広がることで、患者が自ら睡眠の問題に気づき、受診につながりやすくなることが期待される。また、睡眠障害に対する社会全体の認知向上にもつながり、「睡眠の問題は専門的に治療できる」という理解が広がることに大きな意義がある。
一方で、標榜が実現してもなお課題はある。最大の課題は、睡眠医療を担う専門人材の確保である。現在、日本には睡眠専門医や睡眠検査技師が十分に存在しているとは言えず、今後患者数が増加した際に、適切な診断や治療の質を維持しなければならない。特に睡眠時無呼吸症候群の診断に必要なPSG(終夜睡眠ポリグラフ検査)は、高度な知識と技術を要するため、人材育成が急務である。
また、睡眠医療は単独の診療科だけでは完結せず、多職種連携が不可欠である。不眠症では精神科的視点、睡眠時無呼吸症候群では呼吸器・循環器領域、概日リズム障害では生活指導や産業保健など、多方面との協力が必要になる。そのため、医師だけでなく、歯科医、看護師、臨床検査技師、公認心理師、薬剤師、保健師、企業の産業医などとの連携体制を構築していく必要がある。
さらに、睡眠医療の発展には、医療だけでなく社会全体での睡眠リテラシー向上が不可欠だ。日本人は国際的に見ても睡眠時間が短く、「睡眠を削って働くことが美徳」という価値観が根強く残っている。しかし、慢性的な睡眠不足は心身の健康だけでなく、企業の生産性や安全性にも悪影響を及ぼす。今後は、学校教育、企業研修、自治体施策などを通じて、正しい睡眠知識を社会全体に普及していく必要がある。
近年では、デジタル技術やAIを活用した睡眠評価・治療も進展している。ウェアラブルデバイスによる睡眠計測、オンライン診療、CBT-I(不眠症に対する認知行動療法)アプリなど、新たな技術が睡眠医療を支援する時代になっている。ただし、簡易測定だけでは正確な診断が難しいケースも多く、医療としての質を担保するためには、専門医療との適切な連携が必要である。
「睡眠障害」の標榜実現はゴールではなく、日本の睡眠医療を本格的に社会実装していくためのスタートラインである。今後は、医療界、産業界、行政、教育機関が連携し、誰もが適切な睡眠医療にアクセスできる社会を目指していく必要があるとし、「睡眠はすべての健康の基盤である」という認識を社会全体で共有していくことが重要である。
第2部 宮原禎事務局長
「睡眠障害(科)が産業に与える影響 ―睡眠医療の拡大と新たなヘルスケア市場―」
本講演では、「睡眠障害」が診療科名として標榜可能になることによって、医療だけでなく、ヘルスケア産業全体にどのような変化が起こるのかについて、産業界の視点から解説した。睡眠障害の標榜が始まることで、「睡眠障害」という言葉が駅前クリニックやインターネット上に広く掲げられるようになり、一般市民の認知が急速に高まる。これにより、これまで睡眠の問題を自覚しながら受診に至らなかった人々が、自身の不調を「睡眠障害かもしれない」と認識し、受診行動につながる社会が到来する。
厚生労働省の調査でも、日本人の約5人に1人が睡眠に課題を抱えているとされており、睡眠障害科の認知拡大は非常に大きなインパクトを持つ。医療機関への受診増加に加え、未病段階の人々や、より高いパフォーマンスを求める層の間でも睡眠への関心が高まり、関連市場の拡大が期待される。
特に、寝具、食品、ウェアラブルデバイス、睡眠計測機器などの分野では、睡眠を科学的に可視化し、改善につなげる製品・サービスの需要が拡大している。近年では、AIやディープラーニングを活用した睡眠解析技術も進展しており、睡眠関連市場は今後さらに成長する可能性が高い。
また、企業経営の観点からも睡眠の重要性が高まっている。人的資本経営や健康経営の浸透に伴い、従業員の睡眠改善が、生産性向上やメンタルヘルス対策に直結することへの理解が進んでいる。睡眠不足がプレゼンティーイズム(出勤していても生産性が低下した状態)やメンタル不調と強く関連することを紹介し、企業において睡眠施策への関心が年々高まっている。実際に、睡眠改善プログラムの導入によって、ワークエンゲージメントや心理状態が改善した事例もある。
一方で、睡眠障害の標榜実現により、睡眠に悩む方々がより多くスムースに医療にアクセスできるようになった場合、診断や治療の質をどう維持するかが大きな課題になる。睡眠専門医や検査技師の不足が懸念される中、医療を支援する技術開発が重要になる。具体的には、簡便な睡眠計測機器、AIによるPSG解析支援、血中酸素濃度測定機器、デジタル治療、認知行動療法(CBT-I)など、多様なソリューションが必要となる。
日本睡眠協会としては、企業・医療機関・行政との連携を深めながら、睡眠に関する科学的根拠の発信、政策提言、産業支援を進めていく。睡眠障害標榜の実現は単なる診療科追加ではなく、「日本全体の睡眠を変える転換点」であり、産業界と医療界が連携して新たな睡眠社会を構築していくことが重要である。
以上のようなお話に現地・オンライン含め約190名のご出席者が熱心に耳を傾け、理解を深めていただくことができました。
※当協会会員及び当日ご出席の皆様につきましては、別途お送りしているとおりアーカイブ動画等で当日の模様を御覧いただくことが可能です。ご不明な点があれば下記連絡先までお問い合わせください。
当協会では、今回の「睡眠障害の標榜実現」に関連して、別途お知らせするとおり、睡眠薬についてご理解を深めていただく勉強会として、6月19日(金)第1回スリープメディスン分科会の開催を予定しておりますように、引き続きテーマ別に座学形式の勉強をして参ります。ご関心を持たれましたら随時事務局(下記連絡先)までご連絡ください。
【協会概要】
一般社団法人日本睡眠協会
理事長 内村直尚
設立日:2023年7月20日
事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階
HP :https://jsleep.org/
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本件に関するお問い合わせ先
日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org




