第4回女性の健康と睡眠分科会(旧WG)開催のご報告
「睡眠から、人と社会を健やかに。」をキャッチフレーズに、睡眠に関する科学的根拠に基づいた情報の提供と具体的な施策の提案を行うことで、人々の睡眠を、より良いものにし、人と社会を健やかにしていくための活動を推進する一般社団法人日本睡眠協会(理事長:内村直尚、東京都文京区本郷、以下「JSLEEP」)は、2026年1月16日(金)に第4回女性の健康と睡眠分科会をTAKANAWA GATEWAY Link Scholarsʼ Hub(LiSH、東京都港区)において開催し、当日は現地25名、オンラインで20名のご出席を賜りました。
今回は「女性の更年期障害と睡眠」をテーマに、八木朝子座長(当協会理事、久留米大学医学部医療検査学科 准教授)ご出席の下、第1部では飯岡由紀子先生(埼玉県立大学 保健医療福祉学研究科/研究開発センター 教授)から、「ゆらぎ世代の女性を支える職場へ―睡眠改善がもたらす健康経営」と題して、第2部では寺内公一先生(東京科学大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授)から、「中高年女性の睡眠障害:その病態と管理」と題してそれぞれお話をいたしました。概要は以下のとおりです。
第1部:飯岡由紀子先生
「ゆらぎ世代の女性を支える職場へ―睡眠改善がもたらす健康経営」
更年期は、女性ホルモンが“揺らぎながら”変化する時期として捉えられるため、「更年期」ではなく「ゆらぎ世代」と表現した。女性ホルモンであるエストロゲンは、骨、脳、心血管系、皮膚など全身に作用しており、更年期にはその急激な変動によって、心身にさまざまな症状が現れる。さらに、現代女性は就労継続、共働き、育児、介護など多くの役割を担っており、更年期症状にはホルモン変化だけでなく、職場や家庭のストレス、人間関係など心理社会的要因も深く関係している。
近年、女性の社会進出が進む一方で、月経関連症状や更年期症状による「プレゼンティーズム」(出勤していても生産性が低下している状態)が企業経営上の大きな課題となっている。経済産業省の試算では、更年期症状による経済損失は年間約1.9兆円に及ぶとされ、健康経営の観点からも、更年期への理解と支援が重要になっている。
更年期症状としては、ホットフラッシュ、発汗、肩こり、疲労感、不安、抑うつ、イライラ、集中力低下など多様な症状が現れるが、中でも睡眠障害は非常に頻度が高い。働く40〜59歳女性の約7割に不眠症状の可能性があるという調査結果もある。睡眠障害には、寝つけない「入眠困難」、夜中に何度も目覚める「中途覚醒」、朝早く目覚める「早朝覚醒」などがあり、更年期女性ではホットフラッシュや発汗、心理的ストレスなどが複雑に影響している。
睡眠障害への対応としては、更年期障害そのものへの治療と、睡眠への直接的な介入の両方が必要である。ホルモン補充療法(HRT)はホットフラッシュや不安症状を改善することで睡眠改善にもつながる。また、漢方療法や睡眠薬、認知行動療法なども有効とされる。さらに、日常生活でのセルフケアとして、就寝前のスマートフォン使用を控えること、朝日を浴びて体内時計を整えること、適度な運動、カフェインやアルコールの調整などが重要である。
一方で、更年期女性の多くは、自分より家族を優先し、睡眠や受診を後回しにしがちである。婦人科受診への抵抗感も根強く、症状が重くなるまで我慢してしまうケースも少なくない。「治療すると楽になることがある」、「自分に合う医療機関を探してよい」といった支援者からの声かけが大切である。
職場での支援については、更年期を理由にからかったり決めつけたりする「更年期ハラスメント」を避け、「何か困っていることはありませんか」といったオープンな声かけが重要となる。また、相談窓口の設置、柔軟な働き方、研修会や情報提供など、職場全体で更年期への理解を深める必要がある。
第2部:寺内公一先生
「中高年女性の睡眠障害:その病態と管理」
まず、更年期とは閉経前後約10年間を指し、女性ホルモンであるエストロゲンが大きく揺らぎながら低下していく時期である。このホルモン変動によって、ほてりや発汗などの身体症状だけでなく、不安、抑うつ、不眠といった精神・心理症状も生じやすくなる。更年期症状は単なるホルモン低下だけでは説明できず、職場や家庭でのストレス、人間関係、介護、加齢など多くの心理社会的要因が複雑に関与する「バイオ・サイコ・ソーシャル」な問題として理解する必要がある。
更年期症状には、疲労感、肩こり、頭痛、めまい、頻尿、ほてり、寝汗、不安、イライラ、集中力低下など多彩な症状があるが、その中でも不眠は非常に重要な症状のひとつである。講師の更年期外来では、受診患者の半数以上が中等度以上の不眠を訴えていた。特に、更年期女性では「寝つけない」「途中で何度も目が覚める」「熟睡感がない」といった症状が多くみられる。
一方で、興味深い点として、客観的な睡眠検査では女性の睡眠は男性よりむしろ良好である場合が多いにも関わらず、女性は主観的には睡眠への不満を感じやすい。その背景には、女性が男性より気分障害を起こしやすいことが関係している。エストロゲンは脳内のセロトニンやドパミンなど感情に関わる神経伝達物質に影響しており、ホルモン変動がメンタルヘルスにも大きく関与するためである。
更年期の不眠については、従来「ホットフラッシュ(ほてり・発汗)が夜間睡眠を妨げ、その結果うつや不眠が起こる」という「ドミノ理論」が知られている。しかし、近年の研究では、ホットフラッシュだけで不眠を説明できるわけではなく、不安や抑うつ、疲労感、頻尿、関節痛など複数の症状が重なって睡眠障害を形成していることが明らかになっている。特に、更年期外来で強い不眠を訴える患者の3分の1以上に重度のうつ症状がみられたというデータも紹介され、不眠とうつとの深い関連が示された。
また、更年期女性では、不眠症だけでなく、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)やレストレスレッグス症候群(RLS)など他の睡眠障害にも注意が必要である。特に睡眠時無呼吸は「太った男性の病気」というイメージが強いが、閉経後女性ではリスクが大きく上昇する。日中の眠気、疲労感、熟睡感の欠如が続く場合には、睡眠時無呼吸の可能性も考慮すべきである。
治療については、まず患者の訴えを丁寧に聴き、背景にある生活ストレスや心理社会的問題を把握することが重要。そのうえで、生活習慣改善、認知行動療法(CBT-I)、運動療法、リラクゼーションなどの非薬物療法を基本とし、必要に応じて薬物療法を組み合わせる。ホルモン補充療法(HRT)はホットフラッシュや不安症状を改善することで睡眠改善にもつながる。また、漢方薬では加味逍遙散などが有効例として紹介された。さらに、睡眠薬については、従来のベンゾジアゼピン系薬剤のリスクに注意しつつ、近年はオレキシン受容体拮抗薬など自然な睡眠に近い作用を持つ薬剤への期待が高まっている。
更年期は単なる「不調の時期」ではなく、将来の健康を見直す重要な転換点である。閉経後には骨粗鬆症、脂質異常症、心血管疾患、認知症などのリスクも高まるため、更年期を契機として睡眠、運動、食事、ストレス対策など生活習慣全体を整えることが、女性の健康寿命延伸につながる。
以上のようなお話をいただきました。当該分科会当日は公共交通の混乱に加えて機器の不具合なども重なる中、会場までご足労いただき、またオンラインで入っていただいたご出席者の皆様におかれましては、熱心に耳を傾けて下さり誠にありがとうございました。
※当協会会員及び当日ご出席の皆様につきましては、別途お送りしているとおりアーカイブ動画等で当日の模様を御覧いただくことが可能です。ご不明な点があれば下記連絡先までお問い合わせください。
当協会では、6月1日に実現することが決まった医療機関の標榜科に「睡眠障害」が加わることも受けて、別途お知らせしておりますとおり、睡眠薬についてご理解を深めていただく勉強会として、6月19日(金)第1回スリープメディスン分科会の開催を予定しております。このように、引き続きテーマ別に座学形式の勉強をして参ります。ご関心を持たれましたら随時事務局(下記連絡先)までご連絡ください。
【協会概要】
一般社団法人日本睡眠協会
理事長 内村直尚
設立日:2023年7月20日
事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階
HP :https://jsleep.org/
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本件に関するお問い合わせ先
日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org



