【開催報告】第1回スリープメディスン分科会開催のご報告

「睡眠から、人と社会を健やかに。」をキャッチフレーズに、睡眠に関する科学的根拠に基づいた情報の提供と具体的な施策の提案を行うことで、人々の睡眠を、より良いものにし、人と社会を健やかにしていくための活動を推進する一般社団法人日本睡眠協会(理事長:内村直尚、東京都文京区本郷、以下「JSLEEP」)は、2026年6月19日(金)に第1回スリープメディスン分科会をTAKANAWA GATEWAY Link Scholarsʼ Hub(LiSH、東京都港区)において開催し、当日は36名の現地ご出席を賜りました(この他のべ54名がアーカイブ視聴にご登録)。

今回は内村直尚先生(当協会理事長、日本睡眠学会理事長、久留米大学理事長・学長)が「睡眠薬概説(総論)」と題して講演を行いました。本分科会は、6月1日から医療機関が組み合わせで標ぼうできる診療科名に「睡眠障害」が追加されたこともふまえ、睡眠障害の睡眠医療への理解を深めることを目的に設置されたもので、当面は睡眠障害の治療薬を中心に理解を深めて参りたく考えております。初回となる今回は、不眠症治療薬を中心に、睡眠医療を取り巻く制度変化、診療報酬改定、認知行動療法の保険収載、睡眠薬の適正使用と出口戦略、さらに近年使用が広がるオレキシン受容体拮抗薬の特徴について概説していただきました。

内村先生ご講演概要

日本睡眠学会が掲げてきた「日本国民の未来を開く睡眠ビジョン」では、睡眠医療の重要課題として、睡眠障害の標榜、睡眠健診の導入、厚生労働省における担当部署の設置、医学教育コアカリキュラムへの睡眠障害の組み込み、科研費における睡眠関連分野の位置づけなどを掲げている。2023年には母子手帳に子どもと保護者の睡眠に関する記載が加わり、2024年には「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が公表された。さらに2025年度の骨太の方針には、運送業における睡眠時無呼吸対策、睡眠障害の医療アクセス向上、睡眠研究の推進、睡眠関連市場の拡大などが明記され、睡眠が国の政策課題として位置づけられつつある。

不眠症については、慢性不眠障害が約10%にみられるとされ、夜間の不眠症状だけでなく、日中の眠気や疲労感などの機能障害を伴うことが重要である。また、睡眠呼吸障害では、中等症以上の睡眠呼吸障害が男性では約4分の1にみられ、女性でも閉経後には有病率が上昇する(「ながはまスタディ」(※)のデータもふまえ)。女性ホルモンの変化により、閉経後には気道の保持や呼吸促進に関わる働きが低下し、睡眠時無呼吸が起こりやすくなる。

(※) 2013-16年に滋賀県長浜市で行われた集団ベースの縦断的健康調査(前向きコホート研究)

今回の講演で特に強調されたのは、不眠症治療における非薬物療法と薬物療法の組み合わせである。2026年6月の診療報酬改定により、不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が保険収載されたことは大きな転換点である。対面でのCBT-Iは、睡眠薬を複数使用している重症例や、精神疾患・身体疾患に伴う不眠症にも用いられる一方、アプリによるCBT-Iは睡眠薬を使用していない軽症から中等症の患者が主な対象とされた。睡眠薬に抵抗感を持つ患者は少なくなく、一般調査でも「1回でも不安」、「1週間以内なら安心」と考える人が多い。こうした状況において、CBT-Iは睡眠薬以外の選択肢を提示し、必要時には薬物療法へ円滑につなげる役割も期待される。

睡眠薬の使用に関しては、「出口を見据えた薬物選択」が今後の標準となる。従来、日本では睡眠薬の長期・多剤使用が問題視されてきたが、現在は不眠症は適切な治療により改善し、減薬・休薬が可能な場合も多いという考え方が重視されている。患者に対しても「一生飲み続ける薬」ではなく、一定期間使用し、改善後は減量・中止を検討できることを説明することで、治療への納得感やアドヒアランスが高まる。特に、依存形成後に減薬するのは難しいため、治療開始時から安全性や休薬のしやすさを考慮することが重要である。

現在、日本で使用される主な睡眠薬は、GABA受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬の3系統に整理できる。ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系薬剤はGABA神経系を介して鎮静作用をもたらすが、筋弛緩作用や依存、転倒、せん妄などへの注意が必要である。一方、オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒を維持するオレキシン神経系を抑制することで睡眠を促す薬剤であり、GABA系薬剤とは作用機序が異なる。ベンゾジアゼピン系薬剤が不要になったということではなく、不安が強い急性期やアルコール離脱など一定の場面では有用性があり、重要なのは薬剤特性に応じた使い分けであると強調。

安全性に関しては、入院患者を対象とした研究で、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は転倒と関連した一方、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬では明確な関連がみられなかったことが紹介された。また、久留米大学病院でのリエゾンコンサルテーションの検討では、高齢や電解質異常がせん妄リスクとなる一方、ベンゾジアゼピン系薬剤はせん妄リスクを高める可能性が示され、オレキシン受容体拮抗薬はリスクを高めにくい薬剤として位置づけられた。

さらに、オレキシン受容体拮抗薬については、現在国内で使用可能なダリドレキサント、レンボレキサント、スボレキサント、ボルノレキサントの4剤が紹介された。これらは同じDORA(Dual Orexin Receptor Antagonist、オレキシン受容体拮抗薬)であっても、最高血中濃度到達時間、半減期、血中濃度の低下速度、受容体への結合・解離速度などに違いがあり、患者の生活リズムや必要な睡眠時間に応じた使い分けが求められる。例えば、短時間睡眠になりがちな働き盛りの人、高齢者、施設入所者などでは、望ましい作用時間が異なる。従って、薬剤選択では単に「よく眠れるか」だけでなく、翌朝の持ち越し、日中機能、肝腎機能、食事の影響なども考慮する必要がある。

理想的な睡眠薬の条件として、入眠困難と睡眠維持困難の双方に効果があること、翌日への持ち越しが少ないこと、ふらつき・認知機能低下・呼吸抑制が少ないこと、耐性・依存・離脱症状が起こりにくいこと、そして夜間睡眠の改善にとどまらず日中のQOLを高めることが挙げられる。そのうえで、睡眠衛生指導では「睡眠ガイド2023」の内容を一律に守らせるのは難しいので、患者の生活実態に合わせて「できることから取り組む」姿勢が大切である。睡眠薬治療は、薬剤のエビデンス、非薬物療法、患者の生活背景を統合し、より安全で個別化された治療へ進む段階に入っている。

以上のようなお話をいただきました。ご出席者の皆様におかれましては、当日はご質問もたくさんいただき、終始熱心に耳を傾けて下さり誠にありがとうございました。当協会では、今後も本分科会含めセミナーやイベントを企画して参ります。ご関心を持たれましたら随時事務局(下記連絡先)までご連絡ください。

【協会概要】
一般社団法人日本睡眠協会
理事長 内村直尚
設立日:2023年7月20日
事務所所在地:東京都文京区本郷六丁目25番14号宗文館ビル3階
HP       :https://jsleep.org/
X(旧Twitter): https://x.com/jsleeporg
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本件に関するお問い合わせ先
日本睡眠協会事務局 contact@jsleep.org

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